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錠剤の落とし穴

プラネット株式会社 中嶋 秀隆 [プロフィール] :5月号

 最近、ダイエットに取り組んでいる。人間ドックの検診で、体重を下げる必要があるという警告をもらったからだ。
 体重を維持するには、体内に取り込む食糧に見合う代謝をし、体を動かす必要がある。これを数式で表すと、
摂取カロリー - 代謝 - 運動 = 体重一定
 ところがある年齢になると、代謝が不活発になり、運動もしなくなることが多い。にもかかわらず、食べる量は減らない。その結果、体重が増え、血圧が高いなどの診断が出る。
カロリー不変 - 代謝down - 運動down = 体重up =高血圧
 血圧が高いとは、収縮期(上)に140mmHg、拡張期(下)に90mmHg を越えることだという。つまり、管理図でいうと、この上限値・下限値に収まっていれば、正常だ。そのためには、食べる量を減らし、代謝が増え、運動も増やせばよい。ところが医師は、対症療法として、降圧剤を1錠くれる。それを服用し数値が下がると、安心だ。そして、本人は生活スタイルを変えない。
 つまり、過食が続き、年齢とともに代謝がさらに不活発になり、運動不足も続く。やがて次の検診では、血圧は正常範囲を超えている。すると、医者は降圧剤を増やし、2錠くれる。この傾向について、ノーマン・カズンズは次の指摘をしている。「・・・なんでも手っとり早く片づけたいのが・・・風潮だ。患者が医師に求めるのは、結局、生活を改める面倒なしにすべてを引き受けてくれる便利な錠剤だということになる」(『ヘッド・ファースト』)。
 レストランは顧客に喜んでもらおうと料理を提供し、錠剤メーカーは患者を助けようと薬を開発し、医者は患者を助けようと薬を処方する。ここには、そうした、いわば「善意の集合」が本人のためにならない、という構図があるようだ。
 プロジェクトがうまくいかない時、誰もが「善意のかたまり」で取り組んでいる。もしかしたら、錠剤を追加で投入しているのかもしれない。
以上

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