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3つの能力

プラネット株式会社 中嶋 秀隆 [プロフィール] :2月号

 1980年ごろから10数年、米国の半導体メーカーであるインテルで勤務した。日米間の貿易の不均衡が問題化した時期である。私の役割のひとつが、半導体製造装置を日本から調達し、ダブリン(アイルランド)やペナン(マレーシア)などのインテル工場に据え付け、稼働させることであった。日本には優秀なメーカーが多く、そういう取引先とビジネスをしていた。そして、いわゆる「ビジネス文化」の違いがコミュニケーションに支障をきたす場面があった。そこで、インテルの調達部門のメンバーの間で話し合い、日本メーカーの担当者に求めたい資質を絞り込み、こういう能力を備える人を配置してほしいと申し入れたことがある。すなわち、次の3つだ。
1 ) 技術がわかる
2 ) ビジネス判断ができる
3 ) 社内をまとめられる
 ひとつ目の「技術がわかる」には、半導体製造のノウハウとともに、海外貿易の基本、さらにWBS、ネットワーク図、クリティカル・パス、リスク・マネジメントなどのPMの基本を含む。英語が使えるのも大切だ。
 次の「ビジネス判断ができる」とは、ビジネス上の課題について自分の頭で考え、決定できるということだ。些細な依頼についてまで、いちいち「本社に相談します」とペンディングにされたのでは、仕事が進まない。
 3つ目の「社内をまとめられる」には、思い当たる人もいるだろう。メーカーの営業部門と製造部門は、一般に仲が悪い。両者の利害が衝突し、会社としての決定に至らないことが少なくない。顧客にそのツケを回すのは勘弁してほしい。
 最近、PMI®の『PMBOK® ガイド 』第6版が出た。そこに「タレント・トライアングル」(能力の三角形) が記載されている。第5版までにはなかった指摘だ。それによると、プロジェクト・マネジャーには3つの能力が求められる。すなわち、
1 ) プロジェクトマネジメント技術
2 ) 戦略的およびビジネスのマネジメント
3 ) リーダーシップ
それを三角形の3つの辺で表したのが「タレント・トライアングル」である。
 プロジェクトマネジメントのノウハウは、PERTに基づくクリティカル・パス法を先駆けとして、その後、WBSやリスク・マネジメントなど、どちらかというとメカニカルな知識を中心に発展してきた。そうしたノウハウは各産業にそれなりにいきわたったといってよい。しかしながら、プロジェクトを行うのが人間である以上、人間的な要素が欠かせない。そこに焦点を当てるべきである。それこそが、プロジェクトマネジメントのさらなる進展に不可欠だとの観点から「タレント・トライアングル」が生まれた。そして、「タレント・トライアングル」が求める各要素が、冒頭の、3つの能力と軌を一にするのは興味深いことだ。
 ちなみに、3つの能力の期待を公式の会議で日本メーカー各社に申し入れた。すると、あるメーカーの経営陣が異を唱えた。「そんなスーパーマンは当社にはいません」と。そこでインテルでは、丁重にお願いした。「スーパーマンがいないのでしたら、スーパーウーマンをお願いします」。
以上

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