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PMBOK®ガイド 』翻訳裏話

プラネット株式会社 中嶋 秀隆 [プロフィール] :11月号

 『PMBOK®ガイド 』第6版が最近、11か国語のPDFで同時に発表された。印刷物も早晩、発売になる運びだ。
 『PMBOK®ガイド 』の翻訳に私は第2版以来参加しているが。今回はやり方を変えた。そこで気づいたことを紹介しよう。第5版までの翻訳作業は、ボランティア集団がそれぞれの国で別々に行った。日本のボランティアは週末、10回ほど、東京の会議室に集まったものである。
 第6版では、従来とは異なり、ボランティア集団が各国から一か所に集まり、その場で並行して進めることとした。10か国からそれぞれ8名ほど、それに事務局の数名を含め、およそ100人である。時期と場所は、最初が2016年8月にフランクフルト(ドイツ)、続いて10月にブダペスト(ハンガリー)、3度目が2017年2月にバルセロナ(スペイン)、最後が4月にリスボン(ポルトガル)。毎回、4日間の集中作業である。なお、バルセロナでは、PMAJからお2人が参加された。
 私も後半の3回に参加したが、日本チームは毎回、時間いっぱい作業した。だが、余裕を残して終えるチームもある。2日半ですべて終え、最終日は観光を楽しんだチームもいた。そういうチームの多くは(偏見かもしれないが)ラテン系である。その理由は、私の見るところ、次の2つに集約される。
1.日本の技術者の精緻な思考
 日本チームのボランティアの大半は技術者で、かれらは生真面目な性格と精緻な思考の持ち主である。『PMBOK®ガイド 』英語原文で、ある文章をチェックしていると、「ちょっと待って、この文章は前の章では別の訳し方をしたのでは?」という指摘もあるし、「そもそも英語の原文に不備があるのでは?」という問題提起を行うこともある。そのたびに、前の章に戻ったり、PMI®のSMEに見解を求めたりした。会場には疑問点や問題点を書き出すフリップチャートが用意されが、そこに書かれる指摘は、日本チームからのものが大半であった。
2. 英語との親和性
 『PMBOK®ガイド 』の原文である英語はフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語などと親和性が高い。一例として、次の日本の文章を取り上げてみよう。
 「車があれば、行きたいところに行ける。」
この文章に対応する英語は、
 “If you have a car, you can go where you want.”
である。これをフランス語にすると。
 <<Si vous avez une voiture, vou pouvez aller ou vous vouley.>>
となる。つまり、英語をフランス語に翻訳するには、IfをSi、youをvous, haveをavez …という具合に、各単語の訳語を順番に当てはめれば、一応の翻訳ができる。
 さらに主語は、英語ではyou、フランス語ではvousと表すが、日本語ではなくても(場合により、ないほうが)よい。
 日本チームの特性と、英語との親和性の違いがある限り、日本の翻訳チームのチャレンジはこれからも続くと思われる。

以上

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