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異文化間のプロトコール:スパゲッティと握手とハグ

プラネット株式会社 中嶋 秀隆 [プロフィール] :5月号

 プロジェクトの国際化が進み、異文化の人々と一緒に仕事をする機会が、格段に増えた。この際、異文化間のプロトコールが、ひとつの挑戦になるようだ。
 日本人がそばを食べる時、誰はばかることなく音を立ててすする。その響きがそばを味わう醍醐味だという人がいるほどだ。外国人にはそれが奇異に感じられるらしく、テレビのインタビューで、ある西洋人が、「日本人は幼稚圏でちゃんと教えられなかったんじゃないの」とコメントしていた。これには、カチンときた。
 そういえば、食通を自任する米国人とシリコンバレーでスパゲッティを一緒に食べた時、米国では音を立てないという。右手にフォーク、左手にスプーンと持ち、その両方を使って、スプーンにスパゲティを巻きつけて口に運ぶそうだ。音を立てることはしない。なるほどと納得し、以来、そのようにしてきた。
 スパゲッティの元祖・イタリアではどうか。イタリアに出かけた機会に、かの国の人々の食べ方に注目してみた、その結果、イタリアではスパゲティをスプーンにぐるぐる巻きつけることも、音を立ててすすることもしないようだ。では、どうするか。
 ローマのレストランで、イタリア人とおぼしきお客のテーブルにスパゲッティが運ばれてきた。テーブルにはあらかじめ、ナイフとフォーク置かれているが、スプーンはない。そこでお客はまず、左手にナイフ、右手にフォークを持ち、その両方を使って、身体に近い部分のスパゲティと他の食材(肉や野菜)をまとめ、皿の手前部分にひと口大に切り分ける。(スプーンに巻き付つけることはしない。)そして、右手のスプーンの凹面でその小片をすくい、口には運ぶ。(音を立てることはしない。)このようすを見ながら、映画「イタリア紀行」で、イングリッド・バーグマンが同じようにしてスパゲティを食べていたのを思い出した。限られた観察からであるが、どうやらイタリアでは、スプーンに巻きつけることも、すすることもしないようだ。
 だからといって、そばと食べる時に音を立ててすすってはいけないとはいうことにはならないだろう。国際的なプロトコールの違いとして、麺類の食べ方は興味深いケースと思う。
 こんにち我々は挨拶の時、よく握手をするが、これはわが国に明治以降に広がった所作であろう。だが、こんにちでもハグはめったにしない。国際プロジェクトの現場では、このような異文化間のプロトコールが、さらに変化を続けながら、どこかに着地するだろう。ひょっとすると、現在の形が、すでに着地後のものなのかもしれない。

以上

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