PMプロの知恵コーナー
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ビジネスアナリシス

竹腰 重徳 [プロフィール] :2月号

 プロジェクトの本来の目的は、ビジネス価値を実現することにあり、組織のゴールや目標実現に焦点を当てたビジネスアナリシス (BA) が注目されている (1)、 (2)。BAとは、組織内に存在する問題や機会であるビジネスニーズを特定し、それに合う適切なソリューションを推奨し、ソリューション実現のために要求を引き出し、文書化し、マネジメントする一連の専門活動である (1)
 「ビジネスニーズ」とは、対処すべき組織に存在する問題や機会のことで、組織内の変革 (チェンジ) への推進力となり、プロジェクトやプログラムを立ち上げる根拠となる。「ソリューション」とは組織のビジネスニーズを満たすための解決策で、ほとんどの解決策は単体ではなく、ソフトウェア、ハードウェア、プロセスの変更、政策の変更、組織の変更などの組み合わせである。つまり「あるべき姿」の形成に必要なプロセスの要素の集合がソリューションである。「要求」とは、「契約またはその他の公式に課せられた仕様を満たすためにプロダクト、サービス、所産が具備すべき条件あるいは能力」と定義されている (3)。要求を捉える上で重要なのは、すべての要求があらかじめ「明確にそこにある」と考えてはならないということである。組織が抱える本当の問題やその問題を解決するために必要なものを、組織の要員が最初から把握していることは稀である。だからこそ、様々な分析活動を通してこれらを明確化し、要求として可視化していくBAに価値がある。
 BAでは「要求」を、「ビジネス要求」「ステークホルダー要求」「ソリューション要求」「移行要求」に分類している。「ビジネス要求」は、組織のビジネスの問題や機会のような高次のニーズやなぜプロジェクトが実施されるのかの理由をあらわす。「ステークホルダー要求」は、ステークホルダーやステークホルダーグループが持つビジネス要求に適合するニーズを表す。「ソリューション要求」は、「ビジネス要求」と「ステークホルダー要求」に適合するプロダクト、サービス、所産の機能や特性を表す。「ソリューション要求」は、さらに「機能要求」と「非機能要求」に分かれる。「機能要求」はプロダクトの動作、振る舞いを表現する要求であり、「非機能要求」は、プロダクトが満たさなければならない環境条件や品質に関する要求である。「移行要求」は現在の状態から将来の状態に円滑に移行するソリューションが備えていなければならない能力を表すものでソリューションの稼動が始まると不要となる。例えば、データコンバージョン、ユーザー教育、新しい運用体制などである。
 PMI-PBA (1)では、BAの仕事を、「ニーズアセスメント」「BA計画」「要求の引き出しと分析」「トレーサビリティとモニタリング」「ソリューション評価」の 5つの領域に分類している。「ニーズアセスメント」は、組織のゴールや目標を理解し、問題や機会を定義し、現在の組織の能力を評価し、将来のありたい姿を定義し、能力のギャップを特定し、組織のビジネス目標に合った実現可能な計画をビジネスケースとしてまとめ、組織の承認を得る活動である。承認されたビジネスケースは、これを実現するプロジェクト立ち上げのインプットとなる。「BA計画」は、プロジェクトに必要な要求関連の活動を完了するためBAのアプローチと計画を定義するために行われる仕事である。選定されたプロジェクトライフサイクル (ウォーターフォールあるいはアジャイル) によって、BAのアプローチや実行のタイミングが変わるため、それが「BA計画」に反映されプロジェクトで実行される。「要求の引き出しと分析」は、計画、準備、要求の引き出し、分析、その結果を文書化する仕事で、反復的に行われる。「要求の引き出しと分析」には、真の要求を引き出し分析するために、観察、インタビュー、ワークショップ、モデリングなど、いろいろな手法が使われる。プロジェクト期間の多くの時間が要求の引き出しとその分析に使われる。「トレーサビリティとモニタリング」は、プロジェクトライフサイクルを通じて、要求の承認、要求の変更管理などを、要求トレーサビリティマトリックスなどを有効に利用して行う仕事である。「ソリューション評価」は、導入されるあるいは導入後のソリューションをいかに組織のニーズに合っているかを評価、分析、文書化する活動である。
 企業は、ビジネスアナリシスを着実に実行することにより、プロジェクトの本来の目的であるビジネス価値のあるソリューションを確実に構築できるようになる。

以上

参考資料
(1) PMI®、Business Analysis For Practitioners、2015
(2) IIBA®、BABOK-V3、2015
(3) PMI®、PMBOK® Guide Version 5、2013

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