投稿コーナー

1 + 1 = 3、 1 + 0 = 0.7

プラネット株式会社 中嶋 秀隆 [プロフィール] :8月号

 今年 5 月、ロンドンでのPMイベントの帰途、デンマークで自転車一人旅をした。その経験と 3 年前に友人と 2 人で行った自転車旅行 (ウイーン・プラハ間) とを比較すると、大きな違いに気づく。この違いを表題の 2 つの式を用いて紹介したい。

1+1=3
 3 年前に仕事仲間の中憲治さんと一緒にウイーン・プラハ間500キロの自転車旅行をした。1 日に50~60kmほどを走るツアーだ。現代版の弥次喜多道中といってもよい珍道中であったが、それぞれの持ち味が出た、楽しい旅であった。
 ウイーンからプラハ向けて、交代でリード役を勤め、ツアー会社が用意してくれた地図 (ルートがマーカーで示してある) を見ながらペダルを漕いで進む。上り坂や向かい風の場面では一心にペダルを漕ぐのみだ。しかし、スムーズな道や下り坂では、スピードが時速30kmを越すこともある。すると、快適さと、運転者の視野の狭まりから、リード役の私は、地図にある小さな池を見過ごしたり、角をやり過ごしたりした。その度に、中さんが穏やかに指摘してくれた。道々、たくさんの写真を写したが、その対象にも、2 人に違いがあった。一方は美しい景色や町のようす、行き交う人々にレンズを向け、一方は民家の庭に干してある洗濯物や、第二次大戦の犠牲者の碑にレンズを向ける。そんなときには、お互い、自分になかった視点に気づき、新鮮な驚きを覚えた。
 夕方、その日の目的地のホテルに入ると、レストランで一緒に乾杯をし、夕食をとる。一日の旅程を振り返り、お互いの感想を述べ合う。そこでも、喜びを共有し、相手の喜びをともに喜び、新たな気づきを見つける。ワイン談義に花を咲かせ、食事も格別に美味しい。
 ツアーの終わりの方で、スメタナの「モルダウ」の演奏を一緒に聴いたが、この室内楽のパフォーマンスはチェコという国と、この曲への愛着をいっそう強いものにしてくれた。
 要するに、良きパートナーは、こちらの思い込みや勘違いを補ってくれ、新たな視点を提供してくれ、喜びを倍加させてくれる。数式で表せば、1+1=3 となる。つまり、1 の力を持つ 2 人が、それぞれ思い込みや勘違いで 0.7 ほどしか発揮できなくなる場面で、パートナーがそこを補うことで、それぞれ 1 の力が出せる。さらに、相手の視点や喜びが加わることで、総和は 3 になるというのが実感である。

1+0=0.7
 この 5 月のデンマーク自転車旅行は一人旅であった。ウイーン・プラハ間と同様、1 日に50~60kmほどを走ったが、一人旅なので常に自分がリード役だ。すると、地図にある目印を見過ごしたり、角をやり過ごしたりしても、誰からも指摘してもらえない。道を間違っても、自分で気づくまで、そのままずんずん進む。その後、間違いに気づいて、相当の距離を引き返すことになる。カメラのレンズを向ける対象は自分の興味に限られ、2 人の時ほど視野が広がらない。夕食での乾杯も 1 人であり、ワイン談義もない。食事もえてして、栄養の補給がおもになる。
 さらに、1 人だと、外国の地名を覚えない。パートナーがいれば、旅程の確認のつど、その地名を声に出して確認し合う。よくわからない外国語でも、アルファベットの音を声に出すぶん、記憶に残りやすい。この点、1 人だと字づらを目で追うだけで、なかなか記憶にとどまらない。
 これを数式で表せば、1+0=0.7である。本来 1 の力があったとしても、0.7 しか発揮できないという実感だ。
 2 度の自転車ツアーの気づきは、良きパートナーの有無が、成果と喜びを大きく左右するということであった。そして、これは会社の事業にも、家庭にもあてはまることなのかもしれない。
以 上

ページトップに戻る