東京P2M研究部会
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不確実性の中の航海術
- Sailing in the uncertainty -

イーストタスク株式会社 渡部 寿春 [プロフィール] :6月号

 プロジェクトには目指す目標があり其処に至るには不確実性が伴う。既にパターンが定着している場合は、予測可能であるためリスクは低く実現の可能性は高まる。しかし、多くのイノベーションは前例ないことへの挑戦から生まれる。挑戦とは言え無謀な冒険であれば資源を浪費するばかりで実現できない。リスクは発生する可能性と影響度合いにより大きくなり、対応能力が高ければ減らすことが出来る。即ち、可能性×影響度/対応能力を見極めて備えをなすことがリスクマネジメントの要旨である。次の図は、ある航海をイメージしている。


 船はStart地点から出発しGoalを目指す。これが初の航海であればGoalまでの道のりは不確実性に満ちている。A‐Bの線によりGoalへの視界が阻まれ、C‐Dの線でA‐Bからの抜け道が見えない。Goalを目指すには調査のための航海を何度か行う必要がある。この場合も何度の調査を行うべきかの判断が求められる。初めにC地点までの調査を行い戻り、次にB地点までの調査を行い戻り、3度目にGoalを目指すのが良さそうである。しかし、プロジェクトは常に資源と時間、人員の能力により制約を受ける。2度の調査を行っている間に他者が先にGoalに到達する可能性がある。調査のための予算が獲得出来ない場合がある。様々な制約に阻まれながらプロジェクト実施の判断が迫られる時、そもそも何故この航海を行う必要があるのかを吟味して行くことで判断が変わることがある。初の到達者になる必要はなくGoalに至ってからの現地調査が目的であれ他者との競争を気にする必要はない。観光ビジネスの開拓のためであれば、航海の中で観光資源を吟味しなければならない。しかし、初の到達者になるには一刻の猶予もできない。航海には船員の航海技術が必要なことは勿論、十分な船の装備が必要である。暴風雨や大波、落雷に耐え、日照りでも健康を維持出来る食料や衛生を管理するための設備、夜には錨を下し安定し停泊することの出来る設備等が必要である。航海中の環境は常に変化する。時には逆風の中でも蛇行しながら進まなければならない。この航海では、目的と目標を定めた上で十分な備えが必要である。リスクは減らせるが、ゼロにはならない。

 この不確実性の中の航海術は、P2Mのプログラムマネジメントと重なり、時折イメージします。航海には複数のシナリオが必要となりますが、成さねばならない切迫感、成ったら良いなと思う期待感、成りそうだなと思える現実感が必要です。リスク評価で言う発生する可能性や影響度、対応能力は厳密に判断出来るものばかりではないでしょう。P2Mとの出会いから10年目に成りますが、この間、形の違う複数のプロジェクトやプログラムに携わることになりました。その間、これらは常に、切迫感、期待感、現実感が揃うことで実現出来たと感じています。切迫感のないものは必要のないものでしょう。期待感がなければやる気にならないでしょう。現実感がなければ実現しないでしょう。変革に迫られる中で、P2Mは不確実な環境を生きるための航海術と成り得ると思います。

以上

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