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ことわざ集とPM知識体系

プラネット株式会社 中嶋 秀隆 [プロフィール] :1月号

 私の手元にあることわざ集に「二兎を追うものは一兎も得ず」という項目がある。この英国のことわざが成立した背景には、18世紀ごろ英国の貴族が狩場で兎を二匹見つけ、さんざん馬で追いかけたあげく、一匹も穫ることができずに苦笑している顔が目に浮かぶ(伊藤整)。彼は二匹の兎を同時に捕まえようとして、両方を取り逃がし、悔しい思いをした。その苦い経験から教訓 (lessons learned) として「二兎を追うものは一兎も得ず」という言葉を後進に残したのだろう。それが後年、ことわざとして世の中にひろがり、ことわざ集にも組み入れられたものと思われる。
経済学者サミェルソンにアインシュタインが尋ねたという。経済学が教える理論は、大半が常識論だ。例えば、景気をよくするには財政政策で公共投資をし、金融政策で金利をさげるなどだ。もっと、常識を覆すような、目からウロコが落ちるような理論はないのか?サミュエルソンは少し考えてから、答えた。ひとつある。それは 「比較優位の原理」だ。
プロジェクトマネジメント(PM) の専門家に同様の質問をしたら、どんな答えが返ってくるだろう。 PMが教える理論は、大半が常識論だ。もっと、常識を覆すような、目からウロコが落ちるような理論はないのか? PMで使われるめぼしい用語を思いつくままに列挙すると、「プロジェクト憲章」「WBS (作業分解図)」「作業工数」「所要期間」「クリティカル・パス」「フロート」「ファスト・トラッキング」「クラッシング」「負荷の把握、山積み」「負荷の平準化、山崩し」「予防対策」「発生時対策」「トリガー・ポイント、引き金」「事後の振返り」「教訓、体験訓」「例外管理」などだ。ここに挙げた用語のほとんどは、プロジェクトに限らず、仕事の場面でよく使われるものだ。いわば日常語といってよいもので、PM特有のものは多くはない。しいてPM特有のものを選ぶとしたら、「クリティカル・パス」と「フロート」のふたつであろう。
プロジェクトマネジメントの知識体系にはP2MやPMBOK®、PRINCE2 ®などいろいろなものがあり、それぞれの発行主体は活発に浸透活動を展開している。まさに百花繚乱のふぜいだが、いずれも上に列挙した用語やそれから派生する知見に依拠している。
 こう見てくると、ことわざ集とPM知識体系の成立過程に共通するところがあるようだ。自分の経験を反省し、言語化する。それをまとめて第三者と共有するというプロセスである。今後、P2MやPMBOK®その他の知識体系がどのように発展を続けるか、興味をもって、関わっていきたい。

以 上

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