ディシプリンド・アジャイル・デリバリー (DAD)
アジャイルは、当初、小規模なプロジェクトのみ効果があるものと考えられてきたが、最近では、大規模で複雑なプロジェクトに対しても、開発サイクルの短縮、品質の改善、開発生産性向上、顧客満足度向上、社員満足度向上などアジャイルのメリットが認識され、企業レベルのアジャイルの導入が進んできている。しかし、企業レベルのアジャイルの導入には難しさが伴う。その原因は、チーム規模、地域的分散、組織的分散、ドメインの複雑さ、技術的複雑さ、ガバナンスなどのスケーリングファクターがあるからである。スケーリングファクターを克服するアプローチの1つが、ディシプリンド・アジャイル・デリバリー(DAD)フレームワークである(1)。DADフレームワークを利用することにより、スケーリングファクターを考慮した自社に合ったアジャイルフレームワークを作ることができ、企業レベルのアジャイル導入を推し進めることが容易となる。
DADフレームワークは、スクラムをベースに、アジャイルモデリング、XP、リーンソフトウェア、カンバンなど効果が実証されているアジャイル手法の原則やプラクティスを戦略的に採用し、スクラムの機能を拡張するハイブリッド・アジャイルアプローチである。このアプローチにより、スクラムで欠けている技術的プラクティス、モデリング、ドキュメンテーション、ガバナンスに関する機能をカバーしてくれる。スクラムは、全デリバリー・ライフサイクルの構築フェーズに焦点を当てているが、DADフレームワークは、プロジェクトの開始からソリューションを構築して運用するまでの全デリバリー・ライフサイクルを対象としている。DADフレームワークは、方向付けフェーズ、構築フェーズ、移行フェーズで構成される。さらに、DADフレームワークは、フェーズごとに、多くの場合に適用可能な経験に基づいたプラクティスの選択肢や選択に関するガイダンスを提供しており、自社のスケーリングファクターに合った形でアジャイルフレームワークを作ることができる。つまり、プロジェクトの立上げから運用やサポートまでの全プロセスを通して自社に合ったアジャイルフレームワークを作ることにより、スケーリングファクターを持った複雑なプロジェクトを成功裏にデリバリーすることができるようになる。
DADフレームワークの成功事例として、米国小売業で売上No.2のKroger社のウォーターフォール環境でのアジャイル変革が報告されている(2)。
Kroger社では、ドメインやテクノロジーが明確な分野において、ウォーターフォールで長く成功しており、ウォーターフォール文化がかなり浸透していた。しかし、ビジネスのイノベーションが要求される分野では、素早く価値を届けることができず、ウォーターフォールが経営課題となった。そこでKroger社は、ステップバイステップでアジャイルに移行することにした。最初、純粋な形でスクラムの導入を試みたが、十分な成果をあげることができなかった。それは複雑な組織構造、機能的組織、カバナンス、プロジェクト予算編成などのスケーリングファクターが絡んだからである。そこで、DADフレームワークの適用を決めた。ウォーターフォールの存在を前提としたDADフレームワークをベースにして、以下に述べるような変革戦略で漸進的に慎重に推進した。
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ビジネスの価値と結果にフォーカスする |
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トップダウンで変革ビジョンを作り、ボトムアップで変革を推進する |
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段階的に反復して進める(パイロットを成功させ徐々にスケールアップする) |
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プロジェクトやチームの成熟度に合わせ新しいプラクティスに素早く適応する |
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早期のパイロット成功と教訓から学びスケールアップする |
Kroger社では、DADフレームワークを適用したアジャイル変革により、スケーリングファクターを克服し、デリバリーのスピードアップ、製品の品質向上、顧客満足度の向上など、かなり改善することができた。報告の終わりに、ウォーターフォール文化が定着したKroger社にとって、DADフレームワークのアプローチが唯一のアジャイル変革の成功への道だったと述べている。
以上
参考資料
(1) |
リンクはこちら をご覧ください。
Scott W. Ambler,Mark Lines、デシプリンド・アジャイル・デリバリー、藤井智弘監修、翔泳社、2013 |
(2) |
Gerald D. Smith,Moving to Agile in a Waterfall World:A Story of Agile Adoption at Kroger,2012 PMI Global Congress NA |
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