PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (41)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

今月号は実例に基づきどのようなPMコンピテンシーが発揮され、失敗になったプロジェクトを卓越したプロジェクトマネジャだったらどのようにプロジェクトをまとめていったかを、以下のような事例名で話をしたいと思います。

事例名 海外における大規模プロジェクトにおける認知力と多様性の尊重とコミュニケーティング
(プロジェクト進捗の大幅な遅れとPFI事業の採算性)

1.プロジェクトの背景
 本プロジェクトは電気通信事業を行う外国公社とのPFI事業で電気通信設備の新設を含む多国籍企業との合同事業です。
 参加企業の国籍は日本、O国そしてI国の3か国からなるコンソーシアムで、顧客はI国の電気通信公社であり、このコンソーシアムの中にオペレーション要員としても参加していた。
 本プロジェクトはI国全域での既設回線の修復と新設であり、線路システム、光伝送回線システムの新設、交換局の新設、無線システムの新設、そして総合コントロールシステムの新設からなる大型プロジェクトである。
 プロジェクト組織も多国籍という事で人材の多様性を考慮し、設備建設は日本人をトップ(PM:Project manager)となり行うことになり、3か国相談の上、組織配置を行い、体制も整い、業務プロセスも整い、順調な滑り出しとなった。

2.プロジェクトの推移 (ケース-1)
 電気通信に習熟した企業同士の共同事業であり、プロジェクトの現場I国という事と多国籍の陣容による組織という事を除けば、プロジェクトの遂行には多様性を考慮した人材の配置と共通の作業要領の作成により大きなリスクもなく進められるとのPMの判断であった。
 かつ、役割分担としては、O国のCM(Construction manager)には建設現場に関する全権限を与え、PMは主に調達と設計を見ることとした。
(準備段階)
 PMを中心にプロジェクトの遂行要領及び各種プロセデュアーの作成と共通設計基準や仕様の共通認識、そして実行スケジュールの作成も行い、キックオフミーティングを開催し、これらの内容をプロジェクト関係者に周知し、本格的作業に入った。
(設計・調達段階)
 設計及び調達に関する作業は順調に推移し、進捗上は問題なく進み業者の選定も終り、機器材も順次現場に入るように段取りも揃い、現場での機器材料の敷設や建設も開始されるようになっていた。
 準備は順調に推移し、そのまま工事が進めば予定通り、順次エリアごとに通信回線が完成し、運用開始という事になっていたが、現場作業が進むに従いいろいろと問題が発生してきた。
 一番の問題は進捗度合いが芳しくなく、設計、調達、現場作業の流れがぎくしゃくしだした。そして、工事進捗がほとんど零の状態が続き、大きな問題となった。
 状況としては・設計の進捗を確認したが問題なかったが、スケジュール上は行っているはずの肝心の工事関連図面が現場に整理され送られていない、また、一部工事が開始されている現場もあるが現場責任者(SM:Site Manager)がCMに上げた技術的問題をCMから設計担当者にわたっていなかった。この中でもインフラプロジェクトの特徴である、住民とのトラブルそして既存設備とのトラブルも発生し、現地での調整や設計変更もたびたび生ずることになった。そのため、他の現場で同じようなトラブルが発生、そのうえ、O国出身のSC (Schedule Controller)が進捗遅れを的確にPMに報告していなかった。 このようなことが頻繁に発生し、PMがCMの行動に懐疑的になり、結果としてチーム全体が右往左往することになり、現場の進捗が進まなくなり結果として7か月にも及ぶ遅延となった。
 PMは日本側アドバイザーの助けを借り、日本側アドバイザーの対策案に従い、各種の手を打ったが相変わらず進捗にも変化がない状態が続いた。一方、それぞれの出資企業からも進捗が事業に大きな影響が出てくるとのことでクレームが出てくるようになった。
 この結果、O国と日本のチーム員の間に不協和音が発生し、さらに問題が大きくなってきていた。
 結局は日本側PMとO国側CMを出資企業の判断で退陣させることになり、新しいPMとCMに以降の仕事を託すことになった。
 しかし、この進捗遅れと、チーム内の各国から派遣された人たちとの融和にも時間がかかり、結局は大きな遅れと余計なコストがかかり、PFI事業としての採算にも大きな狂いを生じることになった。

3.プロジェクトの推移 (ケース-2:最初からPMに優れた人材を入れていたら)
 PMはプロジェクト発足当初から、インフラプロジェクトの現場が広域に点在していてその状況を把握しにくい事そして多国籍からなる組織であることなどといったことを十分考慮し、現場責任者となるCMに以下のようなことをPMとしての心配事として伝え、また協調して行動する必要があるとのことから:
現場責任者が各現場に散らばっていることを考慮し、CMは設計担当者と現場進捗に伴い、必要都度出かけ、課題発掘のための現場周りを定期的に行うよう指示し、極力現場と一体化した行動をとるようにした。また、設計図面が現場責任者に適切に送付されているかを確認をするといった図書管理に気を配る必要があることにも気を配るようにした。
スケジュールコントローラー(SC)の役目も重要であり、現場の進捗を正確につかむため自らも現場に足を運び、その結果を進捗会議にて報告し、設計、調達、CM、そしてPMが共通の認識を持って行動する。そして、各責任者は仕事の進捗具合のフォローも行い、密なコミュニケーションをとることを指示し、そのフォローも確認する。
特に、スケジュールは各関連の作業の連関を明確にした、そしてあまり細いアクティビティーを示したネットワークスケジュール表を作る。(詳細は各現場単位で作成し、これをもとに現場管理をする)
各現場において設計上の問題が発生したら、その問題をほかの現場にも速やかに伝えるコミュニケーション方策をとる。そのためには、プロジェクト遂行にあたっての共通プロジェクト遂行要領を計画書書作成時に作成しておく。
それと同時にCM配下に各専門技術者を置いて問題の処理と現場への連絡を炭役かつ正確に行えるような体制を作る。
このように面積の広い現場の場合はスケジュールコントローラの役割は非常に大きく、不正確な進捗管理にならないためプロジェクトの進捗を見る必要があるが、そこには進捗を示す予-実管理票(Sカーブ)もなかった。このような場合はCMがSC(Schedule Control)とコミュニケーションを図り、関係者全員がわかるようなS-カーブの見える化を図り、全員参加型の方策をとる。
 以上から見てもわかるように、第一は当初の準備段階での予想される問題を認識して、計画を立てれば多くの問題は解決されたと思われる。しかし、工事進捗の遅れも関係責任者の密なコミュニケーションとS-カーブなどの見える化を図り、全員参加型の進捗管理と、その達成感によるチームの活性化を図ることができる。
 このように、プロジェクトの初期段階でプロジェクトの特性そして多国籍人材によるプロジェクトという事を考慮した、プロジェクト計画とその運営を行うPMによりケース-に示す問題のほとんどは解決できる。
 一方、人種の異なるPMとCMの確執についても相手になるべく権限を委譲するようにすることが前提であるが、欧米系人は自らどんどん決めていく習癖もあるので、PM自身が行動を積極的におこし、CMと密にコミュニケーションをとり、もし間違いがあれば丁寧に説明する。
 なお、欧米系との対話でPMが優柔不断な態度をとるといろいろ不都合も起きるのである時はトップダウンの形で処理することも必要となる。
 すなわち会うときは丁寧に論理的に話をするが、場合によってはきつい指示で命令する必要もある。そのためにも自ら率先垂範で行動し、部下の見本となるようにしなければならない。

4.コンピテンシーとして
 プロジェクトを成功に持っていくためにPMが発揮したコンピテンシーは
本プロジェクトは広範囲な現場と多国籍の人材による共同事業であることを考慮し、プロジェクトを取り巻く状況を十分精査し、情報を集め、問題分析し、その解決策も含めた計画をするといった認知力が必要となる。また、実行に当たっては多様性を尊重しながらも率先垂範を示しての強いリーダシップが必要となる。
異文化からなる組織においては文化、性格、そして物の考え方は大きく異なることがありそれによるコンフリリクトが多く発生する。プロジェクトの運営ではこのような多様化した組織体制の中での運営にはコミュニケーティングが非常に大事なものとなる。
特にコミュニケーションにおいては各種共通手順の確立、スケジュール進捗の見える化を行い、進捗が関係者全員に見えるようにする。それにより、お互いに励まし、叱咤激励するような雰囲気を作る。PMもCMとともに現場に赴き、現場との対話による良質なコミュニケーションクライメートの醸成を図りチームの活性につながるような行動を取る必要がある。

 上記で赤字で示した部分がPMコンピテンシーの発揮によるケ-ス2でのPMの行動に欠けたものを示しています。
 一見、当たり前のようなことですが、同種のプロジェクトを経験した人でもプロジェクトの内容や特性が変われば、必要とするPMコンピテンシーも変わってきます。
 なお、今回の事例での発揮すべきPMコンピテンシーは上記の赤字で示しましたが、多分まだほかのPMコンピテンシーのカテゴリーに示すものがあると思います。
 読者諸氏も考えてみてください。
 なお、現在インフラプロジェクトの海外での展開が政府の先導で新興国で進めているがそのプロジェクトでも同じような問題が発生する可能性もあるので参考にしてください。
 次回は失敗したプロジェクトの話をしたいと思います。この場合、卓越したプロジェクトマネジャだったらどうしたかを少し物語風にまとめてみたいと思います。

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