グローバルフォーラム
先号   次号

「グローバルPMへの窓」(第71回)
閑中忙あり

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :8月号

 65歳以上の人達の間で流行っている言葉に「キョウヨウ」と「キョウイク」がある。「教養」と「教育」ではなく、「今日用事がある」、「今日行くところがある」の意味で、日常的にこれがないとアクティブ・シニアライフになっていないのだそうだ。先日居住地の市役所からアンケート調査が来て、確かにこのような質問が入っていた。

 幸い、もうじき70歳を迎える私は両方満たしているが、つくづく俺もヒマになったものだと思う日が多くなった。用事はあるが、年金生活者であると予算はきついので、用事と楽しみは交通費が最少で済むように工夫を行う。

 今年10月クロアチアで開催のIPMA世界大会用の学術論文も無事アクセプトされて気分を良くした昨日(7月19日)は、都心 飯倉のロシア大使館に渡航ビザの更新申請に行き、そこから歩いて、浄土宗大本山増上寺に参詣し家内安全と旅の安全を祈願してきた。そして、増上寺の前の御成門駅から都営地下鉄に乗り、水道橋に移動、初めて東京ドーム球場に行った。今、真夏の風物詩である都市対抗野球が開催されており、第2試合の東京都代表JR東日本 対 横浜市代表三菱重工業横浜、第3試合の倉敷市・福山市代表JFE西日本(二つの都市の代表は珍しいが、JFEには旧川崎製鉄水島製鉄所と旧NKK福山製鉄所があり、共同でチームを持っているためである)対 石巻市代表日本製紙石巻、の2試合の応援を行ってきた。

 都市対抗野球には、慶應大学から日本石油横浜(現JX-ENEOS)に入社し、新人エースとして優勝した藤田元司投手(その後巨人軍エースを経て監督:故人)の応援に行ったのが1956年であるので、かれこれ60年ぶりの観戦であった。今回は、日本製紙石巻の応援が足を運んだ目的であった。日本製紙石巻工場には、2011年東北大震災後の8月に、私も協力教員を務める、慶應義塾大学大学院ビジネススクールが展開するGrand Design by Japanプログラムの仙台フォーラム・被災地調査で、ダメージ著しい工場で聞き取り調査を行う機会を得た。

 その際、調査チームに対応戴いた副工場長さんから、今は工場全体が崩壊状態であるが、これを機に、新たな発想を採り入れ、逆風下にある製紙業界で勝ち抜いていけるような新工場として生まれ変わるよう全力を挙げて再建に取り組みます、という熱い決意が表明された。それから2年、石巻工場は立派に機動性が高い生産拠点として生まれ変わり、また、間伐材を利用した大規模バイオ発電ビジネス計画も報道されている。その石巻工場は東北地区強豪の硬式野球部を有しており、今年は部史上2回目となる、そして震災被害後2年にして都市対抗野球に東北第1代表として出場している。

 東京ドーム3塁側の石巻応援席は、内野だけでは入りきらず、外野席にも展開する超満員となり、石巻市からも大勢の市民がバスを連ねて応援に駆け付けた。応援も実に見事に調和がとれており、主催者の毎日新聞から前半戦の応援大賞を授与された。この石巻挙げての応援に選手も見事にこたえ、地元石巻専修大学出身のエース相沢投手の好投と打線の効率のよい攻撃で見事JFEを下し、準々決勝にコマを進めた。

都市対抗野球  もうひとつ、石巻チームを応援にいったのは、正捕手の伊場竜太君にある。井場君は慶應高校から慶應大学で捕手・一塁手5番打者であったが、千葉県出身で東北には地縁がないのであるが、自ら日本製紙石巻を志願し、慶應では全うできなかった正捕手の位置を勝ち取った。捕手としての技術も成長し、大学時代から定評があった打撃も健在だ。銚子に近いところで中学生まで過ごした井場君には漁師町石巻は合っているのかもしれない。

 ドーム球場での観戦は1979年8月のテキサス州ヒューストン市のアストロドーム以来であったが、東京ドームが大変美しいこと、ハイボールとフライドポテトが実に美味であることに感動。また、各チームの応援チア達が東京六大学各校の応援部チアの助っ人であることがすぐ分かった。現在の企業状況からすると自前のチアの養成はできない話であり、また大学の応援部にとり、都市対抗トーナメント戦への応援出場は美し場で高いパフォーマンスを発揮できて、貴重な部財源獲得の場でもあろう。

 7月の私に定番になってきたのが、前半の慶應義塾大学大学院での休日3日間を使う特別セミナー”Project & Program Management for the Grand Designと最終週の品川駅前にある北陸先端科学技術大学院大学東京サテライトキャンパスでの一週間の集中講義である。

 慶應義塾の特別セミナーは、上記の石巻の件でも触れた、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)が運営している「グローバル・ビジネス・フォーラムによる日本のグランド・デザイン策定を行う融合型実践教育 」(通称Grand Design by Japanプログラム)の一環で、大学教員・研究者・大学院生・学部生・社会人が融合して慶應義塾の教育思想である“半学半教”を主旨に英語で実施するもので、同研究科の姉川知史教授が企画・総合責任者で、私が統括教員となり、3年目(3回目)の開催であった。今年は昨年に続き、ペンシルベニア州立大学のケンジ・ウチノ教授(圧電技術の世界的な権威)と日本プロジェクトマネジメント協会の井上多恵子国際P2M研修上席講師をゲスト講師にお迎えして、教授6名、大学院生14名、学部生1名、社会人4名の合計25名(その他にスポット見学の大学院生3名)でにぎやかに講義・議論・演習を繰り広げた。プログラムマネジメントのテーマ演習では、「再生エネルギー・ベンチャー企業の立ち上げ」、「エコ・ソサエティー技術 & システム伝承博物館創設」、「インドネシアでのクールジャパン・カフェ展開」、「岡山エコ & サステイナブル社会・産業教育 トランスナショナル・ハブ構想」の4チームが競い合った。

Grand Design by Japanプログラム  10年後の日本のサバイバルモデルの策定、都市と地域の再生、モノづくり日本にとってのグローバル市場での試練の克服、情報サービス産業の沈滞打破、日本のグローバル感覚の抜本的な改良、日本の高等教育の課題、と、取り組むのは今しかない。これらの課題に正面から向き合ってプログラムマネジメントで新機軸を開く気づきと基本的ワザを身に着ける道場がこのグランド・デザインP & PMセミナーである。

 今月のもう一つのマイルストンは、ロシア連邦 モスクワ国立文理大学(Sholokhov Moscow State University for the Humanities)で本年9月からイノベーション専攻修士課程の開設が決定したことである。本年4月末のモスクワでの学術交流の際、私から同学学長への進言がきっかけとなって、同学イノベーション・センター所長の類まれなる知恵と集中力で課程のコンセプト創りとカリキュラム設定、教員の確保、ロシア連邦文部・青年教育省の認可取得、入学者志願者の獲得と順調に進んできた。

 本課程はP2M哲学を統括の枠組みとして、世界各地の工科大学で実施しているCDIO(Conceive-Design-Implement-Operate)教育手法を採り入れて、イノベーション科学と実践論に加え、各国際PMメソドロジーを学ばせる極めてユニークな修士課程であり、ロシア連邦で早くも期待が高まっている。この課程では、常勤ではないが私がScientific Directorを務め、ファカルティーにはロシア人教授・准教授のほかに、ウクライナとオーストラリアから客員教授を配して展開を行うことになっている。

International Faculty of the MSc. Innovation Degree Program

 来月は1年ぶりとなるフランス・ツアーなどについて報告する。  ♥♥♥


ページトップに戻る