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アジャイルにおけるコンプライアンス

竹腰 重徳 [プロフィール] 
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 コンプライアンスとは、組織が命令や規則になどに従うことであり、しばしばプロジェクトを実行する時の必要条件になります。アジャイルの採用を考えるときに、グローバル標準のISO9001やCMMIを導入しているソフトウェア開発企業は、どのようにISO9001やCMMIに対応していくかが課題となります。
1 ) ISO9001
 ISO9001は品質管理および品質保証に関する国際規格であり、1987年に制定されました。「良い品質は、良いプロセスから生まれる」という考え方をベースに高品質の製品やサービスを作り出し、結果として高い顧客満足を得ることを目的としています。ISO9001認証を取得するには、組織内部に品質マネジメントシステムを構築し、民間の審査登録機関による認定を得る必要があります。認証を取得した企業は「顧客満足を得る製品やサービスを提供する仕組みが整っている」という証明を、一般消費者や取引先、社内へ示す事が可能となります。
 ISO9001は、開発方法がウォーターフォールかアジャイルかを指定しているわけではありません。しかし、ウォーターフォールを想定した品質マネジメントシステムで認定を受けた企業が、アジャイルを採用する場合には、ISO9001へのコンプライアンスが課題となります。そうした場合は、アジャイルをISO9001の規格に従うやり方に変えていく必要があります。そのため、自己組織的チームの柔軟性や不要なドキュメントを減らすといったアジャイルの良さが、発揮できなくなる可能性があるからです。
 ただ、ISO9001の規格には、文書化と記録を重視し、「手順を文書化しなさい」「記録を作成しなさい」という要求事項はありますが、「こうして実現しなさい」という記述はありません。したがって、アジャイルの品質マネジメントシステムを一気に構築するのでなく、アジャイルの良さを損なわないよう効果と課題を確認しながら、少しずつ構築していくといったやり方をして対応するとよいでしょう。
2 ) CMMI
 CMMIは能力成熟度モデルの一つであり、システム開発を行う組織がプロセス改善を行うためのガイドラインとなります。CMMIは「継続的にソフトウェア開発を改善している組織では、開発プロセスが成熟していく」という仮定に基づき、プロセスの成熟度を5段階のレベルを定めています。
 2010年に発表された最新バージョンV1.3では、IT業界のトレンドの変化を踏まえて、アジャイル環境での事例も盛り込まれています。プロダクトバックログ、レトロスペクティブ、ベロシティといったスクラム用語も入ってきて、アジャイル開発を行う開発者にとって相当なじみ深くなったと言えます。
 スクラムには、反復終了後にレトロスペクティブ(振り返り)をするというプロセス改善を行うことが組み込まれていますので、スクラムのCMMIへのコンプライアンスは適合し易いと考えられます。Mike Cohn氏も、著書「Succeeding with Scrum」(1)の中で、彼の経験から、スクラムは、ISO9001およびCMMIとは理論的にも経験的にも適合していると述べています。「品質を向上して、顧客満足の向上を図る」という理念は、アジャイルも同じですので適合するのは当然です。
3 ) コンプライアンスへの対応
 ISO9001やCMMIに対応する品質マネジメントシステムに変えていくために、アジャイルの良さをできるだけ損なわないよう、レトロスペクティブの活動を強化し、以下のようなことを考慮して進めるとよいでしょう。
一気にISO9001やCMMIに対応する品質マネジメントシステムに変更するのではなく、適用の効果や課題を把握しながら漸進的に進めていきます。
効果的に進めていくために、アジャイルPMにはスキルの高い人を選任します。また、ISO9001やCMMIを経験した人の支援を受けることも重要です。
アジャイルプロセスに必要な入出力の文書化と妥当性のレビューなどコンプライアンスに必要な作業は、プロダクトバックログ入れてその作業を管理します。これによりその作業が確実に実施され、コンプライアンスに必要な作業記録を残すことができます。
プロジェクトマネジメントに、アジャイルプロジェクトマネジメントツールを利用します。ツールにより、壁面上に貼られたバーンダウンチャートや進捗管理表などのプロジェクトマネジメント関連情報が文書化され、ツール上で記録され、追跡可能となります。
プロジェクトマネジメントに役立つチェックリストを作成し、利用することも役立ちます。例えば、事前に反復レビューのチェックリストを作成し、それに従って反復レビューミーティングをします。チェックリストは、反復レビュー作業記録にもなります。

以上

参考資料
(1) Mike Cohn:“Succeeding with Agile”,Addison Wesley,2011,P397-400

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