PMシンポ便りコーナー
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「 ほたる 」

シンポ企画メンバー 岩元 雅也 [プロフィール] :7月号

 季節はあっというまに梅雨、すでに初夏を感じさせる時候となりました。そしてこの暑い夏をすぎれば、2012年シンポ開催9月6日、7日です。6月20日は既に運営フェーズの三回目で、前回の企画のレビューから各々の“課題や反省点”から様々なことを抽出し、今年のシンポ運営に生かすようスタッフ一同、文字通り額に汗して、運営フェーズを着々と進めています。とにかく今年のシンポは盛りだくさんで、刺激的な企画です。是非 御参加ください。

今回は季節の話から入りましたが、6月は「ほたる」が各地でみられるのではないでしょうか? 私にはこの季節忘れがたい「ほたる」の思い出があります。 大学に入学した年、それは大都会 東京に憧れていた山奥からでてきた青年は、あふれんばかりの希望を胸に、大都会生活を始めました。 しかし、まもなく不慮の事故で父が亡くなり、大学を辞め 故郷へ帰ることになったのです。郷里の実家は混乱し、祖父母も母も相当落ち込んでいるようでした。悲嘆の中、実家へ帰った私は、ある夜、飲めもしない日本酒の一升瓶をかついで、近くの河原へと行きました。出掛けに心配顔で何か言っていた母親に向かって大声で悪態をつき、真っ暗な夜を歩き、月明かりしかない河原で大岩に腰をかけ、味もわからず一升瓶をあおりつづけました。尊敬し、愛してやまなかった父。あの大きな背中をもつ父のことが本当に好きでした。十代の私は人の死に直面するのも初めてでした。飲めない酒が体をめぐり、意識を失いかけていました。家族も崩壊。運命を呪い、漆黒の闇につつまれた自分の将来。深い絶望と孤独。のどの奥を大きな球のようなものがつきあげてきて、その場で一人、ワーッ、ワーぁと声を上げて泣きました。そのまま意識を失い、しばらくして目が醒めると、何か目の端の方で灯ったり消えたりする光が見えました。
したたかに酔って、目が回っているのだと思いましたが、よく見ると蛍でした。気がつかなかっただけで、腰掛けた大岩は無数の蛍に囲まれていたのです。小さな頃から見慣れたはずの蛍は、その夜は、なにか暖かく、穏やかな光を放っています。しばらくすると、何に驚いたのか、一斉に夜空に舞い上がり、その小さな無数の光たちは広大な蒼の中で満天の星と見分けがつかなくなるほど美しく、私は口をあけて見上げるばかりで、夢のような光景でした。すると「アッっ!」思った瞬間に足を滑らせ、私は大岩から川へ転落、平和な光景は一転、地獄と化し、おぼれかけ、死に物狂いで対岸までやっとのことでたどり着き、実家に帰宅したのは、夜も白々とする時間でした。民家に紛れ込んだズプヌレの河童のような私を玄関で迎えた母は土下座をするように私の足元にたおれ込み、目を剥き「アンタまで、死んだら、おかあちゃんも、もう生きとれん!」と泣きました。たんなる母の勘違いでしたが、母なりに私達がこれから立ち向かう困難の大きさを思い、私が悲観したのだと思いこんだのでしょう。 最近の母は、高齢となり少々ぼけています、この前電話したら、
「雅也くん、今日は、ほたるが飛んどったよ。満天の星じゃった。きれいじゃった。昼間よ~く晴れとったからなぁ~」 「そう言えば、あんた・・・小さい頃、ほたるを見に行って川に落ちたんよぉ。覚えとる?」そう言って受話器の向こうで、屈託なく笑うのです。
「おかあちゃん・・・そりゃ僕が小さい頃じゃなく・・・」と言いかけて、それを飲み込んだ。 「 あはは! そんな事あったかなぁ~ 」そう私は答え二人で笑った。
母の中では、やんちゃな子供の頃の私との楽しい思い出と、人生で最も辛かったあの夜の事が混ざり合い、一枚の絵のように、それはそれなりに美しい思い出になっているのかもしれません。 あの夜私が見た、「ほたる」と「星」が混じりあった光景のように。
以上

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