「舟を編む」
(三浦しおん著、光文社、2012年4月10日発行、第10刷、259ページ、1,500円+税)
デニマルさん: 7月号
この本は、2012年本屋大賞で1位に選ばれている。本屋大賞は、「全国の書店員が選んだ、一番売りたい本」として毎年選考され、今年で8回目となる。2004年の第1回が「博士の愛した数式」(小川洋子著)で、昨年が「謎解きはディナーのあとで」(東川篤哉著)である。このコーナーでも、5回目の受賞作品「告白」(湊かなえ著)を2009年6月号に、翌年にも「天地明察」(沖方丁著)を紹介した。先日、アマゾンが2012年上期の和書総合ランキングを発表した。この総合分野には健康・ダイエット書籍も含まれているが、今回紹介の本は上位にあるのでベストセラーといえる。さて、著者について少し触れておきたい。就職試験で出版社を受験し、その文才を認められ採用される。会社勤めをしながら執筆活動を続け、2005年に「私が語りはじめた彼は」で山本周五郎賞の候補となり、翌年「まほろ駅前多田便利店」で直木賞を29歳で受賞している。80年近い直木賞の歴史で20代の女性受賞者は、平岩弓枝氏を入れて4人である。この本は若くて有望な作家の最新作である。
舟を編むとは(その1) ―― 舟は大海を漂うもの ――
この小説は、ファッション雑誌で2年間連載したものを書籍化している。連載当時から話題となっていた。ストーリィは、出版社の辞書編集部の新しい辞書「大渡海」を作る過程の編集部員の悩み、葛藤、喜びを描いたものである。辞書名の「大渡海」は、「言葉の海を渡る舟」であると言い、「もし辞書が無かったら、我々は茫漠とした大海原にたたずむほかない」と書いている。過去から現在に至るまで、辞書が果たす役割は、言葉の道標である。
舟を編むとは(その2) ―― 「編む」の歴史を探ってみる ――
「編む」を調べると、「①糸・竹・籐(とう)・針金・髪などを互い違いに組み合わせて、一つの形に作り上げる。②いろいろの文章を集めて書物を作る。編集する。③計画を組み立てる。編成する。」(大辞林)である。この「編む」の歴史は古く、日本では縄文時代から編物があり、衣類だけなく道具や敷物に広く使われていた。しかし編集の意味は中国語から来ているという。舟を編むという発想が、辞書編纂の膨大な作業を一言で表現している。
舟を編むとは(その3) ―― 編むものは何であったのか ――
この本は小説であるが、辞書編纂に関わる詳細なプロセスが書かれてある。数年前改訂された広辞苑は、24万語と3千の図版や地図が収録されている。この小説の中でも書かれてあるが、言葉の引用文(用例カード)の収集が150万枚近くあり、その言葉は年々変化している。この本の最後に「辞書の編集に終りはない。希望を乗せ、大海原をゆく舟の航路に果てはない」と結んでいる。辞書編纂は、人のロマンと情熱のドラマの様に見えてくる。
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