PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(51)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :6月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

3 笑い
●笑う門には福来たる
 「笑い」に関する様々な研究によって、「笑い」は「苦痛」を和らげ、「免疫性」を高めるという病理学的効果の存在が証明されている(前号参照)。

 それだけではない。「笑い」は、人々に「幸せ」な気分をもたらし、「笑い」の繰り返しによって、ギクシャクした人間関係をほぐし、他人への先入観や固定観念の壁を壊す効果がある。また相互のコミュニケーションを極めて円滑にする「対人好効果」があることも明らかになっている。

 「笑う門には福来たる」という諺がある。昔から「笑い」は、「福」、即ち「幸運」や「幸せ」をもたらすと信じられてきた。この経験則は、科学の目から観ても「正しい」ことが分かる。笑い声が絶えない「家」は栄える。笑いが満ち溢れた「職場」の生産性は高まる。笑いが数多く巷に聞こえる社会は発展するのである。「笑いこそすべて」である。

 この様な事実に基づくと、日本では「お笑いエンタテイナー」が軽視され、時に蔑視されている現実は憂慮すべきことである。明らかに軽視され、蔑視されて当然という人格的に問題のある人物は別として、腹の底から「涙」が出る様な面白い「笑い(感性的効果)」と同時に「その通り」だと納得できる様な「笑い(理性的効果)」を提供できる人物は、「真のお笑いエンタテイナー」であり、重視され、尊敬されるべきである。何故なら彼らは、多くの人々を「幸せ」な気分にさせ、社会を明るくするという社会的貢献をしているからだ。この一事で「エンタテイメント」は、我々にとって重要且必要なものであることが分かる。

出典:Smile Boy Penepoite Com 出典:Smile Boy
Penepoite Com

●幸せを実感する人々の割合
 ポジティブ心理学者(Positive Psychology)の有名なミハイ・チクセントミハイ博士は、TED会議(Technology、Entertainment & Design Conference 1984年米国で創設)で興味深い講演を行った。彼は「1956年、米国の某政府機関の調査では、国民の約30%の人が“非常に幸福である”と答えた。その後、さまざまな調査機関でさまざまな調査が行われているが、総じてその数値は全く変化していない」と発表した。
出典:ミハイ・チクセントミハイ博士の講演会での提示データ TEDのコンファレンス
出典:ミハイ・チクセントミハイ博士の講演会での提示データ
TEDのコンファレンス

 更に彼は、「国民の収入は、インフレ率を考慮すると1996年から1998年に約3倍に上昇した。物質的財産が増えても幸福感は増大しない。その反面、生活に必要な基本的、物質的な財産が不足する貧困レベルになると幸福感は激減し、不幸感が急増する」と指摘した。

 「非常に幸せ」と実感する30%の人でなく、70%の人々は、普通に幸せを実感する人、幸せを実感できない人、そして不幸を実感している人ということになる。これらの割合は国によって違う様だ(紙面の制約から国際比較分析を割愛)。いずれにしても「幸せ」は、どの様な場で、いつ感じるのか?

●ポジティブ心理学
 「ポジティブ心理学」という学問がある。これは、ペンシルベニア大学・心理学部教授のマーティン・セリグマン博士によって提唱されたものである。
 「心理学」は、周知の通り、精神異常者、精神疾患者、精神障害者などの疾患原因を追究し、より優れた治療方法を病理学的に研究する学問である。しかしボジティブ心理学は、その様な病理学的研究ではなく、人間の強さ、長所、特質、そして幸福感などを研究の対象とする。併せて精神的疾患者ではない普通の人々を対象として、彼らの仕事や生活の場に於ける精神的悩みやストレスを如何にコントロールし、マネイジするかに重点を置いている。
 セリグマン博士と上記のチクセントミハイ博士は、2000年に記念すべき論文を発表した。興味がある読者は、  こちら にアクセスして欲しい。

   本論文は、両博士がポジティブ心理学を提唱するに至った経緯、ポジティブ心理学と似て非なる自己啓発運動との違い、それが人間性心理学の流れから如何に由来しているかなどを説明している。

 更にポジティブ心理学研究の共通テーマである、①ポジティブな主観的経験、②ポジティブな人格、③ポジティブな社会制度を説く一方、ポジティブ心理学の未来に向けての課題を論じている。そして「幸せ」の本質を追及している。しかし筆者の「エンタテイメント論」が提示している課題に関して、例えば、「遊び」、「笑い」、「エンタテイメント」などについては、残念ながら論じられていない。

●コーチング心理学
 オーストラリア・シドニー大学・アンソニー・グラント博士は、同大学に於いて世界初の「コーチング心理学」の講座を開講した。同博士は、ポジティブ心理学との融合を計り、目標達成型コーチング、人生の意義付け、幸せな人生(ウェルビーイング)の確立などを目指す「コーチング心理学」を構築した。

 コーチングにポジティブ心理学の考え方や手法を取り入れたことで仕事の目標達成度や生産性向上に貢献しただけでなく、うつ病などの改善に役立つというメンタルヘルス面の効果が期待される様になった。同博士がポジティブ心理学やコーチング心理学が対象とする人々とは誰か?を分かり易く説明した図表を紹介する。

出典:シドニー大学・アンソニー・グランド博士 シドニー大学 出典:シドニー大学・アンソニー・グランド博士 シドニー大学

●太平洋戦争が生み出した極限的「不幸」
 我々は、日々の仕事と生活の場でいつ「幸福」を感じるか? 笑っている時に「幸福」を感じることは既述の通りである。しかしそれだけではない。また「幸福」を論じる時、それと対極にある極限的な「不幸」を実感することで「幸福」の何たるかが分かるだろう。

 ついては、全ての日本国民に極限的「不幸」をもたらした「太平洋戦争」の実相を実感すれば、「幸福」の価値が分かるだろう。しかし筆者と違って、太平洋戦争を体験したことのない読者には土台無理なことである。そのため同戦争の惨状は、東日本大震災の数千倍の惨状が日本中に巻き起こったものと考えれば、少しは実感できるのではないか。

 「米国に絶対に勝てない」という日本政府の某機関の調査結果を無視し、日本は太平洋戦争に突入した。開戦の基本的「戦争戦略(★)」は、「相手をぶん殴って倒し、直ぐに仲直りの握手を求める」という「短期決戦 & 早期講和戦略」であった。(★)戦争戦略は、筆者の造語。通常は「軍事戦略」という。戦争戦略については筆者の著書「夢と悪夢の経営戦略(出版:亜細亜大学購買部)」)を参照されたし。
出典:日本軍による真珠湾攻撃 米国映画「パールハーバー」 出典:東京空襲による一般人の被害者 米国国防省資料
出典:日本軍による真珠湾攻撃
米国映画「パールハーバー」
出典:東京空襲による一般人の被害者
米国国防省資料

 殴られた人間は直ぐに仲直りしない。これは子供でも分かる道理である。まして戦争では相手を殺すのである。早期の講和など絶対にあり得ない。当時の政府や軍部の指導者達は、子供でもおかしいと思う様な戦争戦略で開戦した。

 日本は、無謀・無知な戦略を太平洋戦争の開戦前~開戦後~開戦中~敗戦~敗戦後まで続けた。その内容は、精神訓示的、抽象的、戦略の名に値しないものであった。一方米国は、計画的、組織的、科学的な戦略を遂行し、米国本土から沖縄に到る「不沈空母戦略」と「制空権支配戦略」を成功させ、連日連夜の日本の主要都市への大空襲と2個の原子爆弾攻撃という無差別殺戮を平然と実行した。
出典:広島原爆投下、焼き爛れた被爆者、マッカーサー元帥の無条件降伏調印。米国国防省資料
出典:広島原爆投下、焼き爛れた被爆者、マッカーサー元帥の無条件降伏調印。米国国防省資料

 「もうどうしようもない」という最後の最後の局面で昭和天皇と日本の指導者は「無条件降伏」を決断した。何故もっと早く、何故もっと適切に「戦争終結戦略」を策定し、決断しなかったのか。もしそうしておれば、都市大空襲も、原爆も避けられ、多くの人々の命と貴重な財産を救えた。そうしなかった責任の重大さは、太平洋戦争の開戦責任に匹敵する。

 日本人は、昔も、今も「もうどうにもならない」という最終局面でしか重大決断を出来ない情けない国民である。この戦争責任者への追及は、米国の「手」によって行われたが、驚くべきことに、日本国民自身の「手」によって行われなかった。

 また日本国自身による本格的な戦争原因の追及、戦争戦略の評価、手遅れの戦争終結原因の調査など一切行われていない。更に米国が追及しなかった戦争責任者、例えば多くの国民を苦しめた憲兵の悪行、無実に拘わらず死刑に追い詰めた悪徳戦争協力者などの追跡、逮捕、裁判などという太平洋戦争の「総括」をしなかった。

 この複雑で、深刻で、解決困難な「総括」を先送りし、時の経過で「うやむや」にした。その結果、日本人は、戦中と戦後の「不幸」を背負っただけでなく、現在に至るも諸外国から戦争責任の追及を受けるという「不幸」まで背負うことになった。

●日本プロゴルフ選手権大会2012
 エンタテイメント論の観点から話題性のあるコトを以下の通り、取り上げた。

 2012年5月10日から日本最古のゴルフ史を誇る「日本プロゴルフ選手権大会」が「栃木県烏山城カントリークラブ」で開催された。

出典:左:日本プロ優勝者の谷口 徹選手 ヤフー・ニュース 出典:左:日本プロ優勝者の谷口 徹選手 ヤフー・ニュース

出典:右側
烏山城CC 同CCのHP
出典:右側 烏山城CC 同CCのHP

 谷口 徹選手は、4日間トップの完全優勝を果たした(通算2アンダーの284)。上位6位までの10人の内、韓国選手2人、豪州選手1名が入った。しかし世界の強豪選手は誰一人参加しなかった。彼らは本大会を評価していないのか? 彼らに参加されると日本選手が優勝できなくなると本大会主催者が恐れて参加を呼び掛けなかったのか? 筆者には分からない。しかし中国で開催されるメジャー的なゴルフ競技には多くの世界の強豪選手が参加している。日本は舐められたものだ。

 実力があると評価されている石川 遼選手は、日本のすべてのプロ選手が目の色を変えて戦う本大会に過去5回挑戦した。予選落ちが今回を含めて4回という情けない結果である。しかし日経新聞など各紙で「石川、まさかの予選落ち」と評価している。「まさか」ではなく、「当然」の結果である。何故、筆者の様に彼の実力を「ありのまま」に評価しないのか、不思議である。

●本競技の解説と報道ぶり
 本競技の解説と報道ぶりは、例によって酷かった。日本の他のゴルフ競技でも、他のスポーツ競技のも同じ様に酷い。彼らは、テレビ視聴者を感動させ、楽しませるという考えを全く持っていない。平坦で単純で結果論ばかりを伝える解説と報道である。特に今回は、必死で戦っている競技者やゴルフコースに関して見当違いの解説をしていた。

 本競技の3日目の第3ラウンドでは、特に多くの選手がスコアを落とした。解説者は「強風の影響」であると何度も解説した。競技終了の競技者が「風に悩まされた」と報道陣に語ったことを解説者が鵜呑みにして「強風の原因説」を強調した。しかしゴルフコースでは、度々強風が吹く。無風状態はむしろ例外である。素人ゴルファーでも強風を克服する術を知っている。ましてメジャー競技出場のプロ選手なら強風ぐらいで簡単にスコア―を崩さない。

出典:筆者所有の素材集「H2Soft」 出典:筆者所有の素材集
「H2Soft」

 彼らが苦戦した本質は他にある。それは、①グリーンでボールが止まらない、②カップが極めて難しい位置にセットされている、③フェアウエーが極めて狭く刈り取られている、④左側に池やバンカーが多いことなどでコースの難しさにあった。

 烏山城CCのコースの難しさは、マスターズやUSオープンが開催される超難関コースの難しさではない。米国のマイナー・ゴルフ競技が開催される普通のコースの難しさであることは、テレビ画面から素人の筆者でも容易に分かった。しかし解説者は、同コースが難コースと指摘するだけ。国際比較では普通の同コースであるという指摘がなく、多くの日本人選手がそれを克服する実力が不足している事も指摘しなかった。

 解説者がコトの本質を分かっていないとは思いたくない。もしそうでなけれが、彼は真実の指摘をするとゴルフ選手を傷けること、ゴルフ業界や視聴者から批判を受け、2度とテレビに出場できなくなることなどを恐れていたのではないか。しかしそれでは解説者を名乗る資格はない。真のゴルフ解説が出来ないなら、せめてエンタテイメントの責任を果たすべきである。しかしこれも出来ない様だ。筆者が最低の解説であり、最低の報道であるという真意を分かって貰えたと思う。

 筆者は、いつも「ゴルフ競技」ばかりで本論を解説していると読者から批判されるかもしれない。しかし日本のゴルフ業界も、日本のプロ野球業界も、プロ・サッカー業界も、その他のプロ・スポーツ業界も、根底に近似した体質や実態を持っている。そのためゴルフ競技を一例として論じているだけである。この近似点の1つは「国際化の潮流に乗っていない」ということである。
つづく
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