投稿コーナー

ヤングコーナを再読して

石原 信男: 4月号

 寒さが身にこたえて、ついつい外出をひかえてコタツで温もる日の多い今年の冬でした。
 そんなわけでPMAJオンラインジャーナルのヤングコーナに、あらためて目を通す機会を得ることになりました。感じたことは多くのヤングが学んだ知識と実践への適用に関する心配でした。
 投稿者のほとんどが学部か大学院に在籍しているヤング達で、そのプロジェクトマネジメント(PM)にたいする真摯な姿勢がどの投稿からもうかがえたことは、PMの前途に明るさが見えるようでした。これらの投稿者とは別に、PM関連の資格取得が就職や入社後の位置づけが有利になるのではないか、との思いからPMに関与したヤング達もたくさんおられることでしょう。
むしろそちらの方がずっと高比率かも知れませんね(PM知識体系と資格制度との組み合わせの利点でもあり欠点でもあると私は思うことがあります)。
 その辺はさておいて、これを機会に、自身が過去にたどってきたPMのレベルアップへの姿勢みたいなものを振り返ってみました。詳述すると1冊の分厚い書物になってしまうので、今回は私なりに粗くまとめた要点のみをここに示して、ヤングの方々に多少なりともご参考になればと思い下記のような拙文の投稿を思い立った次第です。

 シニアの私が過去にやってきたPMを比喩的にまとめるならば、PMはジグソーパズルみたいなものであるということです。ここを中心にPMの本筋的な事柄を簡略に述べてみましょう。

プロジェクトは二つとして同じものが無いピースのまとまり。つまりWP(Work Package:、仕事の断片的な単位)の集まりで、これがWBSの存在がいかに重要かを意味します。
WPには、発注者のやるべき仕事と受注者のやるべき仕事の分類が必ずあります。
もちろん、他の関与者が存在するならばその関与者がやるべき仕事もあります。
この区別を関与者がしっかりと認識することが不可欠です。
これはスコープマネジメントといわれるものであることはご存知の通りで、WBS構築には不可欠です。図-1 WBS(Work Breakdown Structure) とWP(Work Package) 参照。
どのWPが欠けてもWBSは成功裏に完成しません。つまり、このジグソーパズル(プロジェクト)は失敗に終わります。
WPにはプロジェクト管理要素(Quality, Cost, Delivery等をはじめとする)のほとんどが含まれています。これを基にPDCA(Plan, Do, Check, Action) を回すことになります。
個々のWPをそのプロジェクトに適した仕事の順序と関連にしたがって、目標に向かって時系列的に合理的につないでいったものがプロジェクトスケジュールです。
手がつけやすいWPから先に仕事を進めてしまうと仕事の手戻りや改定などが必ず生じ、マネジメント不在ともいえるPMになってしまいます。
変更、手直し、追加・削除などWPの変化は、そのWPのみならずこれと直接的に関連する他のWPの改定が不可欠で、これを見過ごすとプロジェクトの成功裏完遂は望めない。
図-2 WP変更の影響を配慮 を参照。
以上のような考え方を本筋としてさらに事項や規定や条件を詳細にまとめて文書化したものが契約書・見積書で、関係者間でのゆるぎない合意文書になります。
契約社会の色彩に乏しい日本では「契約書」の持つ意味と、その重要性を軽視しがちです。
プロジェクトが成功しなかった原因の多くが、この「契約書」の軽視・無視にあります。
PM基本知識体系(たとえばPMBOK®とかP2M)を習得した人が、既存のモデル契約書を読むことは、PMの知識と実践を密接につなぐ一つのきわめて有効な方策・手段となるでしょう。逐条解説(契約条項ごとの詳細な解説)付帯ならばさらに理解が深まります。
ある知識が実践の場でどのような役割や効果を発揮するかを理解できることがたくさんあるからです。
上述の本筋手順は契約完了前までに大方まとまっているべきです(契約後にこれをやってもまったく無意味でしょう)。契約の変更は関係者にとってきわめて難しいことだからです。
リスクアセスメントは、契約締結前、つまりコスト見積の段階でおこない、各WPのコストの中にリスク対応コストとして別枠で入れておくべきものです。契約後では手遅れです。

図 - 1 WBS(Work Breakdown Structure)とWP(Work Package)


図 - 2 WP変更の影響を配慮

 以上ヤングコーナを通読後の私感を、自身の経験にてらしながら本筋をはずさないよう注意して大筋で述べてみました。
 PMの手法・技法・手順はいろいろあります。プロジェクトの数だけあるという人もいます。
 本稿はまったく私個人の考え方にすぎませんが、ヤングの方々にとって、これが習得したPM基本知識の実践への適用に少しでもお役にたてればうれしく思います。
 最後に見積依頼、プロポーザル、交渉、合意、契約にいたるまでの手順と「契約書」の構成の概要を、参考までに下に図示しておきます(プラントプロジェクト主体のものですがIT領域にも適用でるところが多いと思われます)。


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