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サーバント・リーダーシップ特性-ビジョン構想力(概念化)

竹腰 重徳、松岡 照夫 [プロフィール] 
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 サーバント・リーダーシップの提唱者のグリーンリーフは、サーバント・リーダーのビジョン構想力の重要性について、次のように述べている(1)
 「リーダーの特徴、つまり他者に進むべき道を指し示すポジションに身をおく人の資質とは、何よりもまず方向性を示すことに優れていることである。導いている限り、リーダーはゴールを持っている。そのゴールはグループコンセンサスによって決定されたり、あるいはリーダーがインスピレーションによって行動を起こし、『この方向に行こう』といったものかもしれない。リーダーはいつもゴールを把握しており、分からない人には明確にすることができる。明確にゴールを述べたり、言い換えたりして、自力ではゴール達成が困難な人達に確信と目的を与えるのである。
 ここでゴールとは、最も重要な目的・大きな夢・ビジョン・目指すべき最終的な到達点という特別な意味で用いられている。それは現状では手が届かないが、努力して追い求めるものであり、向かう先であり、実現できるものである。とても明確であるため、想像力を刺激し、現状ではやり方のわからないことに挑戦させ、それに向かって努力していることに誇りが持てるようなものである。
 あらゆる成功はゴールのセッティングからスタートする。しかし、どのようなゴールでも良いわけではなく、それを述べるのが誰でも良いというものでない。特に高いリスクや、実行不可能なゴールである場合、ゴールを宣言する人はフォロワーから強い信頼を得なくてはならない。フォロワーはリーダーとともにリスクを負うことを余儀なくされるからである。リーダーは、自分の価値観と能力(判断力も含めて)に自信がなかったり、ゴールを粘り強く追及する精神がなければ、信頼を勝ち取ることはできない。
 夢がなければ大きなことは起きない。すばらしいことが起きるには、大きな夢がなくてはならない。大きな成功の背後には、大きな夢を見るドリーマーがいるのだ。ただ夢を見るよりもそれを実現することの方がずっと必要ではあるが、まずそこに夢がなくてはならない。」
 すなわちサーバント・リーダーは、自分が達成すべきビジョンや夢に対して強い想いを、その実現に向けて、まず最初に明確なビジョンや夢を描き、一緒に実現してくれる人たち(フォロワー)に確信と目的を与えることが必要である。
 明確なビジョンや夢とは(2)
1. ゴールが理解しやすく、納得できるもの
2. 実現したときの状態がワクワク魅力的なもの
3. チャレンジングであるが実現可能性がある
4. わかりやすく、伝えやすい
ことが重要で私利私欲にはしった社会性に欠けるビジョンは論外である。
 松下幸之助もその著書(小冊子)「初めに思いありき」(3)の中で次の様にビジョンの大切さを述べている。「まず、思うこと。まず、願うこと。それがすべてのスタートである。
大きな目標に立ち向かうとき、また、困難に遭遇してこれを克服しなければならないとき、『まず、こうありたい、何とかするのだ』と、願うことからすべては始まる。」。氏は常に目標を掲げ、いかなる困難に遭遇しても、理想とする姿を心に描き、「何としても実現する」という姿勢で努力を惜しまず、事にあたった。
  なおグリーンリーフの後継者でグリーンリーフセンター(4)の前代表のラリー・スピアーズはサーバント・リーダーシップの特性を傾聴、共感、癒し、気づき、説得、概念化、先見、スチュワードシップ、人々の成長、コミュニティ作りの10個に分類しているが、ビジョン構想力は概念化にあたる(5)
 アジャイル開発プロジェクト成功のためには、プロジェクト・リーダー(サーバント・リーダー)は、最初に、プロジェクトが達成すべきビジョン(プロジェクト・ビジョンあるいはプロジェクト憲章)を作成して、メンバーを含むステークホルダーに理解をさせた上で、プロジェクトの実現にリーダーシップを発揮していくことが重要である。グリーンリーフが上述したように、まず、ビジョンありきである。プロジェクト・ビジョンが曖昧だと、ステークホルダーが期待してものと異なる成果物が出来上がったり、やり直しが発生したり、プロジェクトの目的そのもの意義を失ったりして、プロジェクトは失敗する。
 プロジェクト・ビジョン(プロジェクト憲章)の内容としては、次のようなものを盛り込むとよい。
プロジェクトの目的
プロジェクトの必要性・背景
主要ステークホルダーの役割、要求事項
プロジェクトの目標(SMART)
  Specific(具体的に)
  Measurable(測定可能)
  Achievable(実現可能)
  Relevant(妥当性)
  Time Boxed(期限)
前提条件、制約条件
重要成功要因
リスク
プロジェクトの価値観
 このプロジェクト・ビジョン(プロジェクト憲章)は、プロジェクトの立ち上げ時だけ利用するのでなく、各反復の最初で、チームがミーティング行い、次の反復計画を作成するときに、チームメンバーはプロジェクト・ビジョンに立ち戻らなくてはならない。この再考によって、ビジョンを変更したり、日々多忙なチームに作業の目的や意義を思い出させたりする。このビジョンはいつでも誰でも確認出来るよう、プロジェクトルーム内に大きく掲げておくとよいだろう。
以上

参考資料
(1) Robert K. Greenleaf、The Servant as Leader, 1970
(2) 池田光、図解きほんからわかる「リーダーシップ」理論 2011
(3) 松下幸之助、初めに思いありき PHP BUSINESS REVIEW 特別版
(4) グリーンリーフ・センター  リンクはこちら
(5) Larry Spears &: Practicing Servant Leadership(2004)
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