PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (12)

向後 忠明 [プロフィール] :10月号

 今月号は調達に関することを主にお話しします。
 一般的に調達に関する作業としては、引合書(RFP:Request For proposal)の作成から始めます。

 RFPには事業者(オウナー)が作成し、請負企業に発行し提案書を依頼する場合と請負企業が各業者や協力会社に発行する場合の2つのケースがあります。
 その内容も要求する業務範囲も異なってきますが、いずれの場合も最も有利な条件(価格、納期、品質及び各種条件)で契約する為の要求条件書であり、提案する側から見ればやはり最も有利な条件で契約するための条件設定を含む提案書のベースとなるものである。
 すなわち、発注者と入札者のプロジェクト遂行における条件設定の場であり、評価、交渉を通してその条件設定を行い、最終的に契約書の形でその合意書をまとめる元になるものです。
 この期間は発注者および入札者の双方にとって最も重要な段階であり、ここでの失敗は後のプロジェクト遂行に大きな影響を与えるものとなります。そして、最近では余り見られないでしょうが日本企業は契約に関する行為は外国企業と比べ、その関心度は発注者側も入札者側も余り深くないような気がします。特に、IT業界は発注者の力が強く、極端な言い方をすると発注者のいいなりのような気がします。
 しかし、契約は最大のリスク回避の条件設定の場でもあり、かつこの時点を持って顧客(発注者)と入札者(受注者)とは契約と言う書類をベースに甲、乙と言った上下関係ではなく対等な立場でプロジェクトの実行ができるようになるのです。(但し、交渉事で不利な契約内容になった場合は必ずしもそうではない場合もあります)
 上記にかかわるRFPの作成、提案書の作成、交渉、そして契約と言った各行為は対象とするプロジェクトをスタートするにあたっての重要なステップです。そして、ここに携わる人材は対象プロジェクトに関する相当な経験と知識を持っていてかつ交渉事に長けた人材であることが必要かと思います。
 「ゼネラルなプロ」にはこのようなスキルや資質が求められます。

 以下に事業者(オウナー)側(以降、発注者と言う)に立って請負企業を選定するにあって必要なRFP作成までの活動について説明することにします。
 プロジェクトの特性、規模そして発注者側のプロジェクトマネジメントや技術の能力によってRFPの構成、内容も変わってきます。
 一般的に規模の小さいプロジェクトは紙切れ一枚か、口頭によるケースもあるが、そのようなケースは例外とし、ここでは規模の大きな設備またはシステム構築型プロジェクトを対象としたRFP作成までの手順を発注者側の立場で述べることにします。
 なお、RFP作成の中で技術に関する検討が一番時間を要すること、そしてプロジェクトの目的によってはその内容も異なるのでここではその詳細は割愛します。
プロジェクトマネジャおよびキーパーソンの選定
プログラムマネジャ(または担当役員)によるプロジェクトマネジャおよびキーパーソンの選定
プロジェクトを取巻く環境調査
プロジェクトに求められる条件を良く吟味し、本プロジェクト実行に必要な法制度、税制、既存設備・設備またはシステムの状況、請負企業や機材供給業者の状況調査を行い、現地事情の把握をおこなう。(プロジェクトが外国の場合は、現地商習慣、慣習、文化等も良く調べる。)
入札者能力調査

設備建設・システムは入札者の能力の良し悪しで決定づけられる。よって上記の調査をもとに入札者の調査を重点的に行う。
入札者の同種プロジェクトにおける実績をもとにできる限り多くの候補者をあげる。
発注者が本プロジェクトを進めるに当たって考えている契約形態や仕事の進め方、そして候補者の能力を知るための資料入手を目的に事前資格審査を行う。
上記の審査、評価の結果を踏まえて次の作業に進む。
作業区分の設定
入札者の能力および実績等の調査結果に従い発注者と入札者との作業区分(Scope of Work)を設定する。尚、発注者側のPM能力・技術検討レベルを検討し、請負業者にまかせる仕事の範囲も設定する。
総合スケジュール設定
上記各ステップを踏むことによりプロジェクトの全容が明確になるので、ここで総合プロジェクトスケジュールを作成する。(マイルストーンスケジュール)
組織/スタッフの設定
総合プロジェクトスケジュールに従って、いつ、どのような人材を、いつまで必要か、を作業区分をも考慮してマンニングスケジュール(Manning Schedule)をプロジェクトプランにあわせて作成する。また、同時にプロジェクトにかかわる最終的組織の設定と各人の役割分担(Job Description)を決める。
ファイナンス形態の設定
上記の各検討を通して事業者がプロジェクトに必要な資金も発注者自身で行うのか、または入札者にも手配させる必要があるのかを決めておく必要がある。
契約形態の設定
契約には多種多様の形態があるが、契約形態は上記の各工程を通して事業会社自身のプロジェクトマネージメントや技術に関する能力、そしてファイナンスの形態等を考慮して設定していく必要がある。(契約形態の種類については“契約の種類”で説明)
RFP

 RFP 作成にあたって最も大事なことは引合い活動の最終ゴールである契約書の構成と内容をイメージして作成することである。
 そのため、契約後にプロジェクトをスムーズに移行させる契約書の作成までのプロセスは非常に大事であり、短期間にそれも効率・効果的に実行できるようにしなければなりません。

 なお、参考に引合い書に示される項目としては以下の表12-1に示しますが、この内容は筆者が扱った多くの海外プロジェクトでの一般的事例ですが参考に示します。
 なお、各項目の詳細はプロジェクトの目的、内容、規模、技術要件等々により変化するのでその詳述は省略します。
表12-1 引合書の項目例
表12-1 引合書の項目例


 RFP が作成されたら早速に設定した入札資格のある入札者にRFPを表12-1に示すようにITB(Invitation To Tender)を入札書の頭書に入札の注意事項を示し、入札者に送付します。
 なお,ITBは単独で送付し、入札者より期限付きでその意志確認を求め、応札意志の有無を確認をしてから、RFPを送付する場合もあります。

 ここからは入札者の作業が佳境に入ることになりますが、発注者側もプロジェクトメンバーの選定やチーム編成そして入札前ミーティングのセットやらと忙しくなります。

 入札者は発注者がRFP作成段階から営業活動を通して対象プロジェクトにおいて発注者が求める情報を入手し、その分析を行い、提案書作成の準備に入ります。
 以下に営業活動から提案書作成までのプロセスの一般的な流れを図12-1に示します。
図12-1 営業活動から提案書作成まで
図12-1 営業活動から提案書作成まで

 以上のような手順と作業により提案書の作成を行うのですが、この作業は提案者としては非常に重要なステージであり、短い期間でプロジェクト体制作り、見積方針設定、技術検討、コスト積算、リスク分析等を行うと言った」かなりのハードな作業となります。

 今月号はここまでとし、来月号は入札書の内容およびその後の活動について説明します。
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