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モチベーション(やる気)を引き出すリーダーシップ

竹腰 重徳、松岡 照夫 [プロフィール] 
  Email (竹腰 重徳): こちら   Email (松岡 照夫): こちら :9月号

 先月号では脱稿の頃、なでしこジャパンの女子ワールドカップ初制覇の朗報があり、澤主将の優勝秘訣のコメントが筆者等の言う自己組織的チームのあるべき姿を指し示していたのでアジャイル開発チームになぞらえて結文とした。またチームのモチベーション高揚にも通じるところであるので、今回はアジャイル開発チームを自己組織的チームに導くリーダーシップとメンバーのモチベーションをテーマに記述してみる。
 アジャイル開発は、短期間の反復の中で高品質のソフトウェアを作り上げていく開発手法で、人と人との交流(対話とチームワーク)、動くソフトウェア、顧客との協調、変更への適応を価値として成果をあげていることはこれまで述べてきた通りである。アジャイル開発の中で最も採用されているスクラムの特徴は、モチベーションの高い自己組織的チームを実現してチームワークと顧客との協調を重視した仕組みにより、顧客の要求にあったソフトウェアの開発を迅速かつ生産性高く行えることである。
 しかし、開発チームは、最初からモチベーションの高い自己組織的チームが実現できるわけでなく、タックマン(B.Tuckman)が述べているように、成熟したチーム形成には成立期、動乱期、安定期、遂行期の4つの発展段階を経ていくことになる(1)。このタックマンモデルは、1977年にハーシィ(P.Hersey)とブランチャード(K.H.Blanchard) が提唱したSL理論(状況対応型リーダーシップ) の4象限モデルと重ね合わせて考えることができる。すなわち、リーダーはそれぞれの段階におけるメンバーの成熟度に合わせてリーダーシップスタイルを変えることにより、成立期のチームから高いモチベーション(やる気)を持った遂行期のチーム(自己組織的チーム)に導くことできる。

チームの発展段階

タックマンのSL(Situational Leadership)理論
 モチベーションとは、人が一定の方向や目標に向かって行動し、それを維持する内的な心の動きであり「動機づけ」「やる気」とも言われる。人は欲しいと思わせるものや目標があり、欲しいという欲求が高まることにより行動をする。従って個々のチームメンバーのモチベーション(やる気)をいかに高めるかがリーダーの重要な役割となる。モチベーション理論には、マズローの欲求段階説、マクレガーのX理論Y理論、ハーツバークの動機付け・衛生理論、マクレランドの欲求理論、ブルームの期待理論などがあるが、これらの理論から、ソフトウェア開発プロジェクトのチームメンバーのやる気を起こさせるものを考察すると次のような項目があげられる。
信頼する:リーダーが信頼できること
期待される:リーダーから期待され信頼があること
目標明確:チーム又は個人の目的・目標が明確であること
仕事内容:その仕事が役に立ち、好きで、自律的にできること
自己表現:自分の考えやアイデアを生かし、創造性や個性を発揮できること
自己確信:与えられた課題が達成できると確信できること
成長機会:成長の機会があること
評価される:能力や貢献度を正当に評価され、感謝されること
人間関係:円滑な人間関係や協調,交流があること
 これらは、メンバー自身の考え方、価値観、関心ごと、性格、環境などによってそれぞれ異なるので、メンバーのモチベーションをよく理解し、それぞれの状況に応じた対応を取らなければならない。そのために、リーダーは、指示管理型リーダーシップでなく、まずメンバーのモチベーションやニーズを最優先してメンバーを導いていくサーバント・リーダーシップ(2)のリーダーシップスタイルを発揮することが重要である。次号からはアジャイル開発チームにおけるサーバント・リーダーシップについて解説する。
以上

参考資料
(1) Collaboration Explained,Jean Tabaka,Addison Wesley
(2) The Servant as Leader, Robert K. Greenleaf、1970
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