今月のひとこと
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なでしこジャパン
~諦めなければ夢は叶う~

オンライン編集長 岩下 幸功 [プロフィール] :8月号

 女子ワールドカップでの「なでしこジャパン」の奇跡で、日本中が大きな勇気と希望を貰いました。なでしこジャパンの由来は「大和撫子(ヤマトナデシコ)」という言葉からきているそうです。この可憐な花はしばしば女性に例えられ、日本女性の清らかで凛とした美しさを讃える言葉として用いられます。そして2004年に日本女子代表チームに「なでしこジャパン」というニックネームがつけられました。

 ナデシコ(撫子)はナデシコ科ナデシコ属の植物で、カワラナデシコ(河原撫子)の別称です。6~8月に河原で咲く花の名前で、秋の七草の一つでもあります。花言葉は「純愛・無邪気・純粋な愛・いつも愛して・思慕・可憐・貞節」など女性的なイメージですが、「才能・大胆・快活・勇敢・野心・器用」などの意もあるそうです。
一方、ヤマトナデシコ(大和撫子)には二つの意味があります。大辞林によれば、植物のナデシコのうち、在来種を外来種と区別するために「ヤマト」の名を冠して呼び、それがいわゆる「ヤマトナデシコ」です。もう一つは、日本女性の清楚な美しさを褒め称える比喩として用いられる言葉です。やさしくしとやかな日本人女性への賛辞、特に古来美徳とされた、凛として慎ましやかで、一歩引いて男性を立て男性に尽くす甲斐甲斐しい女性像を指します。
花のヤマトナデシコは非常に可憐でか弱く、それ自身で立っていることもままならぬように見えますが、実は乾燥にも強く非常に逞しい花とのことです。大和撫子という言葉も、植物のヤマトナデシコ同様に、みかけは非常に弱そうに見えるけれども、内面はしっかりしていて、実は非常に強い女性を指しています。もともと日本女性は強かったのです。表面的なものではなく精神的に強かった。清楚でありつつも強さを内に秘め、いざというときにはその強さを発揮できるような、内面的な美しさと強さを持っていました。欧米の女性の精神の強さとは少し違います。それは精神の出処が異なるためでしょう。欧米ではあくまで個人という考えが宗教を母体として育まれていますから、その強さとは個人を基としています。一方、日本女性の「大和撫子」の精神というのは、家族が基本の文化の中において育まれており、良妻賢母ではありませんが、家族(チーム)の中での相対的位置感覚から生まれた強さとも言えます。

 今回の日本の戦いぶりは、まさに「柔よく剛を制す」のサッカー版でした、米国監督は「日本はボールコントロールが良く、自信を持ってプレーしていた」と評していましたが、縦に強い欧米勢に対し、細かいパス回しで相手のパワーを減殺し、一人では止められない相手には複数で対応し、奪った後のボールの動かし方も小気味よく、逃げ水を追わせるように翻弄していました。術中にはまった相手はイライラヘトヘトだったことでしょう。
アメリカのサッカーはとにかくフィジカルを重視します。そのパワーと走力のレベルの高さに、これまでも何度となく日本は圧倒されてきました。しかし今回は二度までも先行されながら、絶体絶命の中でも諦めず、起死回生のミラクルを演出してくれました。終了間際、ゴールから遠ざかる動きをとりながら、ジャンピングボレーの格好でミートする。この奇跡的なゴールを誰が予想できたでしょう。正に「サッカーの神様」の存在を予感させるものでした。
1993年の男子ワールドカップでのサムライブルーの「ドーハの悲劇」では、日本中が「最後まで絶対に気を緩めてはいけない」という教訓が与えられましたが、今回はその教訓を見事に活かしてくれました。「何があっても、最後まで絶対に諦めてはいけない」のだと・。
男子は監督が代わるたびに「ジーコ」「オシム」「ザック」ジャパンなどと呼び方が変わりますが、女子は誰が監督になっても「なでしこジャパン」で変わりません。ここにチームとしてのコンセプトが感じられます。男子があちこち「寄り道」している間に、なでしこは普通のスタイルを深く掘り下げて、「サッカーを日本化」(オシム)してきた訳です。今出来ることに集中する、余計なことは全てそぎ落とす。被災地が示した日本の道徳心の高さを試合でも示す。折れない心、不屈の精神、諦めない気持ち、粘り強く、チームワークといった特長は、踏まれてもへこたれない自生の強さを持つ「ナデシコ」の由来からも伺えます。そして女子サッカー史上で初めて、個人のパワーではなくチームの技術力のサッカーで世界を制しました。なでしこジャパンによって、世界の女子サッカー界も新たな時代に突入したといわれます。女子サッカーの将来にとって日本が示した方向性はいいことだと思います。ブレない普遍のスタイルで、日本の良さを徹底的に追求したら、ガラパゴス化することなく、国際標準になったということです。

 なでしこジャパンの活躍が連日報道されていますが、PMにも野球型PMとサッカー型PMがあると言われます。予め役割が決められ、スケジュールと指示に基づき、分業で目的を達成していくのが野球型PMです。所謂、伝統的なウォータフォール型PMといえるでしょう。一方、目的だけを共有し、基本的に判断・行動は個々に任せ、心を合わせて協業していくのがサッカー型PMです。そこには明確な指示系統は無く、助け合いながら、trial and error(試行錯誤)でゴールを狙います。所謂、アジャイル型PMに近いと思います。
野球型、サッカー型、何れにも一長一短があります。目的、規模、競合にも左右されます。
これに「なでしこ」精神、「さむらい」精神を加えて、「なでしこPM」「さむらいPM」というものを確立していくことが、「PMの日本化」に他ならないと思います。
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