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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~旅を楽しむ力~

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 ダイバーシティー時代のプロジェクトマネジメントを考える際、「旅」を避けて通ることはできない。PC等を用いて遠隔地を結んで会議をすることは技術的に可能だし、その便利さを私も享受している。 一方で、面と向かい合って会うことも捨てがたい。始めて誰かと会う場合、モニターを介してではなんとなくしっくりこないし、「ある場を共にすること」で理解を深めたり、また、共感を得たりすることができる。だから、働く場所が異なるメンバーが、あるプロジェクトに携わる場合、キックオフミーティングや大事なマイルストーンを確認する必要がある場合等には、「旅」をして「共通の場」に行く必要が出てくる。
 私も今年に入ってから、2月にマレーシア、5月にタイとアメリカに続けて出張する機会があった。マレーシアとタイは事業所との打ち合わせが目的で、アメリカには、ある特定の職種の人々がメンバーとなっているカンファレンスに参加することが目的で行った。
 10代から20代にかけても、よく旅に出かけた。学生時代にはバックパック姿で、欧州やアメリカに行き2等列車やグレイハウンドバスに乗った。社会人になってからも、出張で複数の国に旅したほか、プライベートで南の島に行ったりしている。当時は、旅の全工程が楽しくて仕方がなかった。直行便ではなく、中東経由で何十時間もかけていくフライトでも、それほど疲れることはなかった。体も今よりは細かったから狭いエコノミーの席でも問題無かったし、普段豪華な食事をしていたわけではないので、機内食も美味しく食べることができた。肌の衰えを気にすることもなかったから、機内が乾燥していても、特段のケアをする必要はなかった。
 今はそうはいかない。アメリカへの往復便は満席で、私の席は、3人列の真ん中。しかも、両隣に大柄の男性が座ったので、自由に動けず、背中は同じ姿勢を長時間保つため、板状態になった。エコノミー症候群にならないことを祈りながらのフライト。肌の乾燥を避けるためにマスクをかけるものの、目のまわりがドライになってくるのはわかる。航空会社が提供するサービスもコスト競争で低下してきているため、食事も楽しみではなくなった。「まずい!」と思う場合さえある。食事の量や回数も減ったため、空腹を感じることもあり、飛行機に乗っている間は、「後何時間?もう嫌!」と思う状態が続く。
 それでも、現地に着いたその瞬間から、つらかったことは忘れ、「やっぱり旅はいいものだ!」と思っている自分がいる。旅に出ると、面白い体験やさまざまな発見があるからだ。アメリカの空港で、ウエンディーズでサラダを食べる私を珍しそうに、大きな目でじっと見つめていた小さな黒人の男の子。カウンター向こうで”Next!”(次!)と言う無愛想な店員に、日本のサービスの良さを実感した瞬間。ホテルのフィットネスセンターでマシンを使った後、ペーパータオルにスプレーしてマシンを拭く人々の姿に、タオルを使う日本のフィットネスセンターとの違いを発見。大きなセッションで、会場中に鳴り響くアメリカを称える歌を大声で歌う歌手グループに、アメリカという国を支えてきたものをかいま見た10分間。夕食時に出てきた、5人分ぐらいはありそうな巨大なチョコレートケーキに、肥満に悩む国の一因を見出したりもした。マレーシアでは、ダイバーシティーの中にいる国の存在を強く感じた。工場では、他国から出稼ぎに来ている人も含め、複数の人種が同じ生産ラインで働いていたし、オフィスから空港に行くまでの1時間弱の間、インド系のタクシー運転手が少数民族としての日常を熱く語るのを聴いた。
 今年に入ってからの3回の海外出張での発見ベスト3は、「学び続ける力・ネットワークの構築・ボランティア精神」だ。アメリカのカンファレンスには、40代になっても、50代になっても、役職が高くなっても、あるいは、引退した後も、学び続けて自らを成長させたいというプロフェッショナルが数多く参加していた。ある人はこう断言した。「日々学び続けて自らを成長させること、それが我々の根源だ」そんな彼ら彼女らは、自分を高めるための手段として、ネットワークの構築に熱心だ。Would you like to network?”( ネットワークしたいですか?)と言って名刺を渡すストレートさにちょっとたじろぎもする程だった。カンファレンスの期間中にさっそく、LindedIn(ビジネス版ネットワーク)への誘いもあった。”Give back.”(還元する)という言葉も何度も聞いた。「キャリアを積み上げ一定の地位についた我々には、後進のために時間を割いてメンタリングをしたり、指導をしたりする義務がある」という発言もあった。キャリアアップに熱心なだけではない。自分が選んだ職業に自信と誇りを持ち、その地位を今後も高めていくために協力しようという姿勢。
 PMAJのメンバーである我々も、彼らから学べることは多い。
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