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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~回復力~

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

東北地方太平洋沖地震で被災されたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。被災地の一日も早い復興を心から祈念いたします。

 東北地方太平洋沖地震の報道にあたり、多くの海外メディアが、苦境におかれた日本人が示している態度・心の在り方を称賛している。思いやり、冷静さ、秩序を守るといった、我々自身が忘れかけていた日本人の良さを我々自身も再認識している。その中で私自身、特に強く印象に残ったのが、resilience(回復力)だ。“Japan has to bring out the energy, resilience and wisdom that we have”「日本人が持っているエネルギーと『回復力』と知恵を引き出さなければならない」米国の"Piers Morgan Tonight"というショーの中のインタビューでオノ・ヨーコ氏がこう語ったのを聴いた時、2月にAOTS (財団法人海外技術者研修協会:開発途上国等の技術者・管理者を対象に国内外での研修を通じて技術協力を推進する研修 専門機関)でフィリピンのビジネスパーソンに対して行ったP2Mの講義のあるシーンを思い出した。
 「フィリピン人はresilientな(回復力を持つ)国民だと聞いたけど、どう思うか?」と問いかけたPMAJ協会の田中理事長に対し、彼らは頷きながら、「我々は、確かにresilientだ」と答えた。私のフィリピン人との直接の接点は、昨年と今年AOTSで講義をした数日間しかない。しかし、その短い期間でも、回復を可能にする彼らの明るい気質を十分に感じとることができた。話好きで、プレゼンテーション好き。好きなだけでなく、上手い。聴いている人を楽しませることに長けている。田中理事長によると、「フィリピン人は、世界一のエンターテイナー」。カラオケでもないのに、休憩時間中歌っている人までいた。講義の中で実施したグループワークの際にも、その気質は存分に発揮された。4つのグループに分かれ、チームビルディングに必要だと考える要素を各グループから説明してもらうワークでは、こんなことがあった。ちょっといかめしい感じがする30代後半から50代とおぼしき男性3人グループは、彼らが醸し出す雰囲気とは真逆の可愛いイラストを用いて説明してくれた。輝く太陽や花などが描かれた模造紙。思わず、田中理事長も、AOTSの事務局の方も、そして私も、カメラを手に取っていた。カメラと言えば、フィリピン人は大の写真好きで、ファイスブックの使用率はダントツだという。研修の最中もしょっちゅう、彼らは写真を撮っていた。私の写真も、誰かのファイスブックのページに掲載されていることだろう。その精神にのっとり、私も彼らと一緒に撮影した写真を今回紹介したい。大の大人が万歳をしている。私は感情を表だって表現する方ではないが、この時ばかりは、彼らのペースにはまって一緒に万歳をした。不思議なことに、万歳すると解放感が出て、なんだか元気になった気がした。
 今の日本の現状は、明るく笑うには程遠い。BBCが報道したように、「日本人は文化的に感情を抑制する力がある」からこそ、混乱の中でも秩序だった行動がとれることも事実だ。でも、つらい状況の中でも、心をほっとさせることを見つけていきたい。たとえそれがどんなに小さいことであっても。暗い心のままでは、行き詰ってしまう。周りを明るい気持ちにさせるなど、フィリピン人の「心の持ち方」に学べることがあるかもしれない。
 回復するためには、「あきらめずに頑張る」ことが欠かせない。サッカーのイタリア1部リーグのインテル・ミラノに所属する長友佑都氏は、東日本大震災の被災者支援として行われる日本代表-Jリーグ選抜の慈善試合に参加する目的として「あきらめない姿勢を見せたい」、と語った。テレビでも「頑張ろう、ニッポン」のメッセージが流れている。いつ終わるかわからないこの苦境を乗り越えるためには、つらくてもあきらめずに前を向いて少しずつ進んでいかなければならない。我々日本人はフィリピン人とは気質は違うけれど、オノ・ヨーコ氏が語ったように、彼らと同様にresilience(回復力)があるのならば、きっと乗り越えることができる。
 今回の地震で気づいたことがたくさんある。世界から称賛される日本人の良さ。米国の番組に相次いで出演しているという藤崎一郎駐米大使の英語での見事なメッセージ発信力。そして、日本は単独ではなく、日本の惨状に心を痛め、さまざまな形で支援をしてくれている世界各国の人々との共生の中で存在するということ。これら全てを力にして、日本人らしい方法で、日本を回復していければいいと思う。
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