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【ソフトウエア品質を向上させる中国行政の取組について】
〜江蘇省ソフトウエア品質計測センターとの取組の紹介〜

戴 春莉 [プロフィール] :3月号

 品質マネジメントにおいてもプロジェクトマネジメントにおいても顧客満足は重要項目として取り上げられており、顧客満足を達成するには要求事項適合と使用適合性の両方が必要だと定義されている。
 要求事項への適合をしたとしても、顧客の満足を得られない、多くは要求仕様書の精度が高くないと認識されている。顧客が仕様書を更に詳細に書かなければいけないと考えているが、何処まで詳細にすればいいのか明確にせず、コーディングと同じぐらい詳細仕様書を作るところもあった。
 要求仕様書に「要求」を書かなければ勿論実現できないが、一般常識(業務以外のIT技術者の基本的な教養)まで細かい要求を書くのも「仕様書依存症」を起こし、思考力を持たない技術者を生み出し、長期的には品質の低下に繋がり、顧客の満足を得られない悪循環を引き起こすこともある。
 顧客満足のもう一つ要素、「使用適合性」に関して、ソフトウエアの使用者にフォーカスすべきなので、使用者目線を持たなければ「使用適合性」を実現できない。
 中国国内でソフトウエアを販売する時、下記の国家政策がある。(注:オフショアと受託開発は政策対象外)
販売するソフトウエア品質は、各省の国家指定ソフトウエア品質計測機関でソフトウエア品質を計測し、品質認可書を取得することを必須とする。
市販ソフトウエアであれば、著作権の登録済み証明書の提出、或いは取得も必須である。
品質認可書を取得すれば、販売時に納付した売上増値税17%の14%は国から企業に還付すること。
 国家指定ソフトウエア品質計測機関では、多くのソフトウエア製品をテストしている。弊社では、当機関がどのように顧客目線で品質を計測したかを把握したく、三年前から、「江蘇省ソフトウエア品質計測センター」(同省の国家指定品質計測機関)に弊社の製品をテストケースとして「受入確認テスト」を依頼した。担当者達の品質基準や品質に対する認識を試そうとしたのが目的だったが、その結果は驚くべきものであった。
 同センターの品質基準は、GB_T16260、ISO_IEC9126等のソフトウエア品質特性規格の「機能性」「信頼性」「使用性」「効率性」「保守性」「移植性」であり、国際基準と同様な基準である。中国のソフトウエア政策のため、当センターが計測したアプリケーションの数は極めて多く、2001年から昨年末まで、すでに10,000件以上のソフトウエア製品を検証し、公的機関と企業のネットサービスパフォーマンス評価は1,800件以上、情報システム監査(プロジェクト資質、ソリューション資質などの審査)も200件以上担当し、著作権登録済み証明書の発行も3,300件以上に達 した。同センターはこれほど多くの案件をこなしてきているため、業種に関係なく、それぞれ業種の「利用者目線」を身につけている。「開発の仕様書に基づいてテスト作業を行う」V字型モデルから離れ、第三者の中立的な立場で、「利用者目線」から、実装した機能の漏れチェック、使用性チェック等を一貫してテストを行っている。
 例えば、画面上に「発注日付」、「納品日付」の二項目があった場合、仕様書に日付の大小チェックという要求を記入しなくても、当センターが自身の基準に照らし合わせて判断している。具体的には、「発注日付」に入力した日付が「納品日付」より遅れた場合、仕様書問題ではなく、「一般常識のバグ」として開発側に差し戻すようにしている。
 弊社の受け入れ確認テストに関しても、大変満足な結果であった。水際で問題が発見・解決され、その完成度の高さに感服した。また、開発側の技術者達も当センターの利用者目線のチェックによって、技術者自身も不十分なテストの視点に気付き、利用者目線を理解し、短期間で大きく成長した。
 日本には「以心伝心」があり、中国でも「以心傳心」「心心相応」の言葉がある。つまり、中国人も日本人と同様、相手のことを思えば、相手が何を考えているのか、何を意図としているのかは自ら理解できる文化である。ゆえに、例え日本側が仕様書に暗黙知、常識を書かなくても、中国側が「利用者目線」を持っていれば、日本側の暗黙知・常識を理解することができるだろう。そして発注側と受注側、顧客と技術者はお互いの長所を活かせば、顧客の業務ロジック仕様書+開発側の利用者目線の技術実装仕様書の結合は、ソフトウエアのパフォーマンスを最大限発揮することができるだろう。
 日本だけでなく、ソフトウエア利用者目線での品質意識を持つことが、ソフトウエア品質の改善に繋がり、結果的に顧客満足の向上に結びつく、一見非常に当たり前のことだが、この当たり前のことを当たり前と思わずに、あらゆる階層で徹底することが今求められていると思われる。
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