リレー随想
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P2M 理論の精緻な体系化を望む

PMAJ理事 梅田 富雄 [プロフィール] :1月号

「リレー随想」に執筆を依頼されたので、この機会に1960年以降「プロジェクト」というキーワードに触れてきた過去を振り返り、将来について考えてみることにした。プロジェクトに関する知識体系(問題処理手順、方法論など)も時代に変化に合わせて変化してきたことを再認識することになったが、プロジェクトエンジニアリングとマネジメントがワンセットになっていた時代からIT系に特化してプロジェクトエンジニアリングが希薄になった時代を経て、プログラムマネジメントの必要性が認識され、P2Mの創造、展開へと繋がり、多くの関心が持たれつつある現在まで、種々の展開がなされてきた。プロジェクトは、本来的に個別性が強く、実践重視で業務遂行に役立てられていることから、理論が存在しているか否かが、疑問視されることもあり、共通のコンテキストを持って、固有の理論体系の構築、方法論の開発、展開にあまり関心が寄せられてこなかったように感じる。
今後の重要課題として、少子高齢化の間違いない出現を前提に、わが国の持続的な経済発展に必要とされる唯一の人的資源にも問題提起がされている。グローバルな競争環境において、競争優位に展開するためには、ガラパゴス現象などに代表されるような状況をいかにして回避し、自らの強みを生かした戦略的な展開が求められている。プロジェクトおよびプログラムマネジメントに関わる競争優位の状況は、1960年代以降に種々の経験に基づいて培われたものが基盤になっているが、激しく変化する経済環境に対して、そのまま、この基盤が機能し、従来通りの競争力を保持し得ることに危惧の念を抱いている方も多いのではないかと推察する。このような問題意識から、今後何が必要な事柄か、について考えてみたい。
複雑かつ不確定な状況下において、必要とされることは、状況認知能力と状況対応能力であるが、局所的に日常的に発生する事項は、個別的で一般化して関連知識を共有することは極めて難しいことは周知のとおりである。しかしながら、巷には多数の問題発見や解決の方法、成功体験、時には反面教師として失敗体験など、あたかも個別の問題に対処できるかの印象を与える書籍が毎月のように新刊書として発刊されている。プロジェクト関連の書籍についても1980年初めから種々の自己啓発を目的にした啓蒙書の発行数を急激に増加させている。このような状況のもとで、自己実現に向けて、日頃の業務経験の蓄積と関連づけて出来る限り普遍性のある状況認知能力と状況対応能力を身につけるためには、理論化を念頭においた各自が関係する分野での固有の知識体系化が役に立つのではないかと考えている。プロジェクトマネジメントは本来的に個別性が高く、実践重視の活動であることも事実であるが、普遍的な事項は理論的な背景を基盤に据えなければ、固有の知識体系に整理することはできないと思う。目的達成のためには、理論と具体的な作業手順、テクニックを体系化した方法論を持つ必要がある。IT関連システム開発プロジェクトについて、プロジェクトや方法論についての本質的理解が欠けているとの指摘(林衛著“情のプロジェクト力学”実業之日本社2008)もなされており、同様の印象を持たれている人も少なくないと思われる。
ここ2,3年、サステナブルP2M に関して研究を実施し、成果を発表しているが、研究が示す方向は、有限な地球での生命系の一部を占める人類が共通認識のもとで取り組むべき課題であり、持続可能な、時空を超えた営みを担保していくために必須のことであると考える。P2Mの方法論は、一般的な方法論と同じく、基盤となる理論化をすすめ、過去に培った知見を継承しながら、社会的なニーズに応えて進化しながら状況対応し展開していくものである。時代の変遷とともに重点課題と解決のための方法論は変化することは必然であるが、変えるべき事項と変えてはならない事項(不易流行)にいつも留意して方法論を進化させる必要がある。具体的な実践の場においては、方法論の適切な開発と選択が必須であることは言うまでもないことである。最近のPMシンポジウムで、基盤となる知識体系や方法論にシステムエンジニアリングを含む複眼的な側面からの取り扱いが欠落しているとの報告を行ったが、サステナビリテイに関連して根源的に生命系の一員として地球環境の創成に当たって現在の瞬間における人の富の追求と永遠の生命である生命系とをいかに調整するかの知恵が問われているとの指摘(岩槻邦男“生命系”岩波書店1999)を改めて噛みしめた。日頃は当面の課題解決に関わる研究活動を行っているが、時には自己を振り返り、現実におかれている見えない姿が何であるかを感じ取りながら軌道修正する必要性を痛感している。P2Mに関して、望ましい方向を共有化し、具体的な課題解決の方法論を展開し、進化し続けることを望んで、随想の結びとしたい。
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