図書紹介

不確実性と闘うあなたへの指針! ―「狩猟型プロジェクトマネジジャーの哲学」―
(伊藤健太郎著、生産性出版、2010年10月12日発行、第1刷、369ページ、2,800円+税)

飄々:12月号

この本は、「なぜプロジェクトは失敗するのか」「成功するプロジェクトマネジメント」等の著者として知られ、また「PMシンポ」での講演者としても著名な、アイシンク株式会社代表取締役社長伊藤健太郎によるものである。PM業界での長年の経験に裏打ちされた、正確な言葉使いと説得力のある展開で、初心者にも分かり易い実用書として仕上がっている。

狩猟型プロジェクトマネジャーとは?
 「名称や規模の大きさに関係なく、組織のリソースを使って業務を遂行する責任者は、本質的にプロジェクトマネジャーである。プロジェクトマネジャーというポジションは組織が与えるものであり、様々なプロジェクトマネジャーが存在する。初めてプロジェクトを担当することになった人やベテランの人、プロジェクトマネジメントの訓練を受けている人や受けていない人、行動的な人や思慮深い人など。それらの違いを超えてプロジェクトを成功に向けてドライブ(推進)していく人が狩猟型プロジェクトマネジャーである。(本文より)」
狩猟型プロジェクトマネジャーは、未来との格闘 、納期との戦い 、ステークホルダーとの戦い 、海外プロジェクトでの闘い 、プロジェクト終結との戦い 、自分との戦い、というプロジェクトからの挑戦を受けながら責任を全うする。そういう中では、基本的なプロジェクトマネジメント知識は役立つか?実践で経験を重ねる方が成長の上で効果的か?メンバーには自由を与えるのがいいのかそれとも管理すべきか?プロジェクト遂行は論理性重視と感情や感性の重視、どちらがいいか? 等々・・・本質的なことを自問しながら、自らを覚醒へと導いていくのが狩猟型プロジェクトマネジャーであると説く。
七人の狩猟型プロジェクトマネジャーの哲学 とは??
 更に下記7つのプロジェクトをリードしたマネジャーとの紙上対談を通じて、狩猟型プロジェクトマネジャーの具体的なイメージを抽出しようと試みている。
①製品用のソフトウエア開発プロジェクト
②多国籍チームでの海外プロジェクト
③「太鼓の達人」wii開発プロジェクト
④資本市場基盤に関するITプロジェクト
⑤DVD用接着剤開発プロジェクト
⑥温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」開発プロジェクト
⑦社内の新制度である「カンガルースタッフ」プロジェクト
 その対談では、実践を通じて、下記のような珠玉の言葉が発せられている。
・うまくいかないときも人間関係、うまくいくときも人間関係
・個人の事情を尊重する 。業務の現場を徹底的に見る
・ベストシナリオとワーストシナリオをイメージする
・プランナー、ディレクター、そしてプロデューサー
・かかわったメンバーが何か得るものがあったか
・意思決定はデータと直感を使い分ける
・捨て身の信念を持つ 。目標に対してぶれない
・未来を語る。全体としての一貫した価値観を明確にする
・・・
おわりに
 PMに関するフレームワークや知識体系を説く実用書は多いが、それらを読んでも実践でどのように活かすかが分からない。本書では紙上対談を通じて、実践の場で活躍されている具体的な人物に迫り、狩猟型プロジェクトマネジャー像を炙り出している。それが非常に示唆に富み、身近に感じられ、参考になる。現在、プロジェクトの挑戦を受け苦しんでいるヤングPMやワンランク上を目指しているミドルPMには、必読の書としてお勧めしたい本である。

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