PMP試験部会
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「最近のシステム開発事情」
その1― 表現能力不足からくる問題

イデオ・アクト株式会社 代表取締役 葉山 博昭:4月号

 最近のシステム開発プロジェクトマネジメントを指導することが何回かあったが、プロジェクトマネジメント上の問題も確かに多く、その不足した面を支援する必要性は高くPMOの設立等などで補うよう指導・支援してきた。だがシステム開発の基本的技術に不安を覚えることが多い。今回はその中で表現能力が低いことがトラブルを誘発していることが多いので、システム開発中の表現能力に焦点を当てて最近のシステム開発事情の一端を披露する。

1、 設計ドキュメントの作成の問題
 要件定義、基本設計、詳細設計、テストの全工程で見受けられることだが、システム開発では顧客が行いたいことを、いかに行うかということを表現し顧客に理解してもらい、了解を求める必要がある。又プロジェクトチームの内部の担当者の間でも顧客の要望を実現する方法を理解、確認してもらうことで顧客の意図に反したものを作ることを防がなければならない。システム開発では行いたいこと実現方法を文章のみで表現することはかなり文章能力が高くても難しい。そこには5W1H、場合によっては5W2Hの網羅性と、「起承転結」のような表現のストーリー性が求められる。しかし表現能力の教育自体はSEの教育に入っていないシステム開発企業では多く、理解しやすい設計書を書けないということが発生している。一般的にシステム化を依頼する顧客はコンピューター、システム開発に関する理解の低いのが当然であり、一般顧客の理解を得ることが出来るドキュメントを作成することは極めて重要である。文章作成能力、表現能力はSEでなくても一般社会では当然求められるもので、SEだから必要というものではないのでSEの教育の一環として入っていないのも当然と言えば言える。システムという目に見えないものを作成するシステム開発では、作るソフトウェア自信とハードウェアとの関連は文章、絵図、表を駆使して表現する以外に方法はないので、表現能力は極めて重要なものである。
 筆者のようにこの業界に長い間従事している人間はSE教育とは別にビジネスマンとしての基礎の素養として入社2、3年迄に先輩から教えられたり、一般的書物、ビジネス書からその方法を学んだ。筆者は工学部出身なので実験・実習のレポートの作成で、図表と文章を組み合わせてなにを訴えるのか、また設計図ではその美的感覚を含めた全体でのバランス、また詳細な表現方法は基本的にトレーニングを受けてきたので、文章だけでは表現出来ないことでも、図表を用いて表現出来ることは理解していた。文章についても「起承転結」、「5W1H」くらいのことは大学で学んできたが、ビジネスでの場ではその程度では全く不足で、入社2、3年までの様々なドキュメントを書いた経験は、その後の技術文書を作成するのに役に立った。正直なところ企業に入ってこれほど物を書くことが必要とは思わなかった。
 特に自らの着眼でシステム化を企画し、スポンサーから予算を獲得しシステム開発に結びつけるためには、様々なプレゼンテーション用の資料、文章を作成しなければならなかった。入社5、6年の時の経験であったが、自らの書く力が無いと自らがやりたいことを実現出来ないという重要な教訓となった。
 では最近はどうか、ほとんど大学を出ても満足な文章を作成したことも、書いたものを評価されたりした経験がない人間が多い。このような人間がシステム開発においていきなり顧客を理解させるドキュメントを作成出来ないのは当たり前であって当人を一概に非難できない。またこのような状態では、プロジェクトチームの中でも自己の思いを表現し他人に仕事を依頼することも難しい。
その結果顧客の意図したものが作成出来ず、プロジェクトの他の人員にも説明出来ず一人で解決方法を抱え込んで立ち往生する人間も多い。
 実際のシステム開発の現場では満足な表現能力がないのにも関わらず重要なドキュメントを作成する場面に遭遇してしまう。どのように切り抜けるというと、どこからか過去作成された同種のドキュメントを利用して見よう見まね作成することとなる。しかし過去に作成されたものが再利用するに値するものであれば良いが、多年に渡り同じことを繰り返しているこの業界では、再利用に値しないものが多い。その結果極めて表現能力の落ちるドキュメントの再生産が繰り返されているのが現実である。また若い技術者を指導すべき年長者に豊かな表現能力があるとは限らず、文章といっても箇条書きが書ける程度の年長の技術者は多い、そういう現実を見てしまった若い技術者は表現能力磨く必要性をあまり感じなくなってしまう。
 よく要件定義がなかなか終わらないと顧客の責任であるかのように言っている技術者がよくいるが、もちろん顧客が自己のシステム開発の業務を理解していないというケースもあるが、顧客が理解出来るようなドキュメントを作成していないことも多い。顧客に理解するのにかなりの想像力を強いている場合もある。一を聞いて一を書いて確認しても時間がかかってしまうばかりである。一を聞いたら自分の想像力で百を書けとは言わないが、十は書いて欲しいものだが、顧客の言うことだけを書くのが精一杯ということが多い。遅々として要件定義が終わらないケースはこのようなケース多い。やはり一を聞いたら十を書くくらい能力がないと要件定義フェーズのスピードは極端に落ちる。又基本設計工程に入り顧客の要望を文章、絵図、表を適宜用いて表現しないと、基本設計の合意に達するのにも多大な時間を要してしまう。
 最近同じプロジェクトマネジメント関係のコンサルタントの多くがよく言うことの一つに、全体を俯瞰出来るドキュメントが少なく、全体を把握することが極めて難しいという話がよく出る。このようなことはシステム開発会社の大小に関わらず発生しているようであり、筆者もこの2、3年、システム全体機能情報関連図、サブシステム毎の概要図を書くように指導してもなかなか書けず、PMコンサルの筆者が代わりに書くはめになったことが殆どであった。
 SE教育に表現能力の向上と教育があっても良いと思う。

次回は「工程に関する最近の事情」
以上
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