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「6カ国協議とアーンドバリューマネジメント」

石原 信男:10月号

 北朝鮮 アメリカ 中国 韓国 日本 ロシアの6カ国で北朝鮮の核開発問題に対する解決のための協議が行われています。
 北朝鮮が核無能力化を実現させるならば、その「見返り」として既存の制裁措置の解除、エネルギーや食糧の無償提供支援を行いましょうというものです。日本政府は、これに懸案の拉致問題の解決もからめて交渉に臨んでいます。

 ここでまたまた私の悪い癖?が顔をだし始め、6カ国協議の交渉のかたちをプロジェクトマネジメント(PM)の視点から見てみたら・・・、ということになった次第です。
 そこで、今回はアーンドバリューマネジメント(EVM)の切り口から、交渉の進み具合を考えてみることにしました。

 私たちPMに携わる者としては、EVMとは価値の出来高(Earned Value)をもとにプロジェクトの進捗を評価するマネジメントの一つのかたち、というのが一般的な概念です。
 そして下図にしめすようなEV進捗測定基準(通常Sカーブといわれる)をベースラインとしてマネジメントが行われるのは多くの方々がご存じのとおりです。ただ、これを単なる進捗測定のマネジメントツールとして見てしまうのでは、EVMのもつ多彩な機能の活用という面からしていかにももったいない気がします。
 これを出来高払い支払方式や工事進行基準に基づく会計処理方式にうまく適用するならば、EVMのもつ本来の機能が十分に活用でることになります。

 ちょっと前置きが冗長になってしまいました。
 それでは6カ国協議をEVMにてらして見てみましょう。図を参照して下さい。

Sカーブ

 北朝鮮を除く多の5カ国が描くSカーブは −・−・−・− 表すような普遍的なものであるはずです。つまり、価値と対価の等価交換を前提としたEVMです。ここでの到達目標としての価値は北朝鮮の核無能力化、その対価(コスト)は進捗に見合った制裁解除(たとえば米国による金融制裁解除、テロ支援国指定解除など)やエネルギーや食糧の無償提供、つまり「見返り」というかたちの対価です。
 ところが、北朝鮮の描くSカーブは、自身が創出する価値(核無能力化)・・・・・・・・・・・・・・ とそれに見合う対価(見返り獲得)−−−−−−−の二通りのSカーブを巧妙に使い分けているように、いままでの交渉の経緯から感じられます。
 核無能力化に到達するまでにはWBS的にいろいろなWP(ワークパッケージ)の存在が識別されているはずです。問題は各WPの出来高測定方法の考え方に、北朝鮮と他の5か国との間で大きなズレがあるように思えてなりません。私なりの極端な言い方をするならば、北朝鮮の出来高測定メジャーの目盛は 100:0 つまりあるWPの仕事に着手した段階で100の「見返り」を手にする、こういった目盛です。
 しかも、各WPの着手から完了までの期間が非常に長い、このようなことを連綿と繰り返して行くことで大した価値を生まない(やっているようには見えるが核無能力化への実質的な成果は上がらない)ながらも「見返り」だけはしっかりと手にできる、こんな構図が見えてきます。米国はそれに見合う成果を得ることもなく金融制裁解除という大きな対価をすでに支払ってしまっています。つまりは着手した(する)というプロセスに対してそのプロセスの結果に見合った対価を、結果を見るまでもなく前払いしたことになります。
あやうくテロ支援国指定の解除にまで先走るような愚だけは思いとどまったようですが。

 今後のリスクは、もうこれ以上の目ぼしい「見返り」が期待できないと北朝鮮が見極めた時点で(図のTIME軸のX)、何らかの理由をつけて北朝鮮が6カ国協議から離脱することです。そのあとに、拉致問題をからめて日本との2国間協議を持ちだして大きな「見返り」を目論むのではないでしょうか。

 EVM発祥の地米国の現政権においても、日本の政治家や外務省のお役人も、政治・外交とはそんな単純なものではないなんてことではなく、PMやEVMを基礎からしっかりと勉強して北朝鮮のようなしたたかな相手との政治や外交に役立ていただきたいものです。
 拉致家族の皆様のご心労は思うに余りあります。日本国民の安全と幸せをしっかり守るための国政も外交もいわば納税者である我々国民がオーナーのプロジェクトなのですから。
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