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当世「なぜなぜ分析」考
〜ITベンチマーキングSIG〜

富士通株式会社 木野 高史:9月号

1.なぜ今「なぜなぜ5回」?
今年のPMシンポジウムでは「なぜなぜ5回」をテーマにした発表/セミナーが2つある。また私が発表する「実戦力養成法」もその中で「なぜなぜ分析」に触れている。「なぜなぜ5回」はTPSの一環で有名になった手法なので、広く知られているが、この「なぜなぜ5回」が今になってこれほどもてはやされているのは、世の中がそれだけこの方法に目新しさを感じているからではないかと思う。しかしわれわれ旧世代の者からみるとこの現象は少々奇異に映るというのが正直なところである。弊社にも古く80年代からニーズ分析の手法としてC-NAP/NAというものがあり、その中で原因分析の方法として「なぜなぜ分析」についてベテランSEは教育を受けた。しかし弊社ではその後久しくそのような教育は途絶えてしまい、現在の中堅から若手の中には「なぜなぜ分析」というものを業務で経験したことのない人が多くを占めるようになった。我々が開催している「プロジェクト事例PM研修」の受講者からも「なぜなぜ分析を初めて経験した」とか「なぜなぜ分析の手法を現場で活かしたい」という声が多いが、それらを聞くにつれ、このような基礎教育の必要性を痛感している次第である。なぜこのような状況になってしまったのか?について私なりに分析してみた。これらは実態調査し「なぜなぜ分析」で分析したわけではないので、仮説の域を出ないが、以下に私の考えをまとめてみたい。

2.SI業界における事情
まずSIのビジネス環境が昔に比べて、開発スピードが要求されるようになったということが遠因としてあるように思う。SIの現場において人手不足が慢性化し、SEは日常的に時間に追われ、日々発生する問題の表面的な処理を実施するだけで精一杯という状態が長く続いてきた。これが習慣になると、時間があっても原因追求については思考停止となり対症療法のみに終始するということになる。このように原因追求をさぼり、根本対策を怠れば、問題を先送りして、将来さらに多くの問題発生を誘引するという悪循環を引き起こすことになることはお気づきのとおりである。そのような日常の中で苦しい経験をして育ってきたSEは、それがSEの仕事の宿命であり、やりかたであるという誤解のもとで部下を同様に指導するということが繰り返されてきたのではないかと考えている。このような潮流に抗して原因追求と根本対策をSEにしつけとして植えつけることができるのは企業文化としてどの程度その精神が根付いているか?ということにつきるのではないかと思う。トヨタの「なぜなぜ5回」が根付いているのはその結果と考えてもいいのではないかと思う。弊社も数年前の失敗プロジェクト多発を反省し遅まきながら、根本原因追及〜根本対策を企業文化まで高めるように努力しているところである。この傾向は弊社だけではなく、PMAJのPMシンポジウムの関連テーマの多さからみてもSI業界同様の傾向ではないかと考えている。

3.企業文化としての「なぜなぜ分析」
最後に企業文化としての「なぜなぜ分析」について触れてみたい。「なぜなぜ分析」をあえてここで企業文化と呼ぶのは、「なぜなぜ分析」は構えてやるものではなく、日常的な問題に対して、習慣的にできるようにならないと本物ではないと考えているからである。そのためには教育の場だけではなく、現場で日常的にしつけとして擦りこまなければならないもので、上司を含めて職場のリーダークラスがその重要性を認識していないとできるものではない。まさにそれこそが企業文化といえるのではないかと認識しているからである。
「なぜなぜ分析」の活用場面は提案段階でのお客様の問題分析だけではなく、開発現場での日常的な問題、運用保守段階でのシステムトラブル、プロジェクトクローズ時の反省と教訓化など多岐に渡る。弊社にもC-NAP/NAといういいものがありながら現場に根付かなかったのは、おそらく、その効用を顧客提案のニーズ分析ツールとしてのみ認識し、SE現場の日常的な問題分析に応用する視点が欠けていたからではないかと推察している。その点を反省しつつ「なぜなぜ分析」の植え付けに取り組み、企業文化にまで高められればと考えている。
以 上

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