PMP試験部会
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PM標準だんご三兄弟

PMAJ研修第2部会 米澤徹也:9月号

昨年、米国PM協会(PMI®)からProgram Management標準とPortfolio Management標準が発行され、2004年に発行されたPMBOK®ガイド第3版と合わせてプロジェクトマネジメント(PM)に関連する3つの標準書が揃ったことになる。また、これらは2008年に共に改訂版が発行される予定である。

PMBOK®ガイドは、単一のプロジェクトを対象として業界横断的に共通的に用いられている知識・ツール等を標準ガイドブックとしてまとめたものである。そこには、一般的に受け入れられているPMのプロセスが標準化され、そして体系化されているのである。この標準化・体系化はPMの世界に大きく貢献し、その有用性は多くの人が認めるところである。
それでは、昨年発行されたProgram Management標準およびPortfolio Management標準はどうかというと、PMBOK®ガイドのコンセプトに基づき同様に標準化と体系化がなされているのである。これまで筆者は、単一プロジェクトのマネジメントであるからこそ、標準化・体系化が可能になったものだと考えていたが、PMI®はプログラムやポートフォリオのマネジメントの領域までそれらを適用した。

標準化・体系化と繰り返し述べたが、それは大雑把に言うと次のとおりである。
  • それぞれのマネジメントに必要なプロセスの特定
  • そのプロセスを、知識エリアを縦軸に、プロジェクトの時間軸での流れを表すプロセス群を横軸にしたマトリックス上に分類
  • 各プロセスの流れのフロー図化
  • 各プロセスにおけるインプット・ツールと技法・アウトプットの明示
ここでは、Program Management標準やPortfolio Management標準に、どのようにPMBOK®ガイドと同様の手法を適用させたのかを、お互いに比較しながら見ていきたい。

読者の方が、Program Management標準やPortfolio Management標準に少しでも興味をもたれ、これらを読んでみようというきっかけになれば幸いである。

(1) 定義
プロジェクト、プログラム、およびポートフォリオの定義、更にそれぞれのマネジメントの定義を比較できるように記したものを表1に示す。

表1 用語の定義
プロジェクト プログラム ポートフォリオ
独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期性の業務である。 プロジェクトを個別にマネージすることからは得られない利益やコントロールを獲得するために、調整されマネージされるお互いに関連するプロジェクトの集合体。 戦略的ビジネス目標達成に向けて、効果的なマネジメントを促進するために、組織が選択したプロジェクト、プログラム、及びその他の業務の集合体
プロジェクトマネジメント
プロジェクトの要求事項を満足させるために、知識、スキル、ツールと技法をプロジェクト活動へ適用することである。
プログラムマネジメント
プログラムの戦略的利益や目標を達成するために、プログラムを調整、集中してマネジメントすること。
ポートフォリオマネジメント
特定の戦略的ビジネス目標を達成するために、1つ又は複数のポートフォリオを集中してマネジメントすること。

(2) プロセスの特定
それぞれのマネジメントで一般的に受け入れられる標準的なプロセスを特定した。
* PMBOK®ガイド :44個のプロセス
* Program Management標準 :39個のプロセス
* Portfolio Management標準 : 9個のプロセス

(3) プロセス群と知識エリアのマトリックス
PMBOK®ガイドではPMで用いられる44個のプロセスが、表2-1に示すとおり5つのプロセス群を横軸に、9つの知識エリアを縦軸としたマトリックス上に分類されている。

表2-1 PMBOKガイドにおけるプロセスの分類
表2-1 PMBOKガイドにおけるプロセスの分類

これに対し、Program Management標準では、全く同様にプログラムマネジメントで用いられる39個のプロセスが表2-2のとおり分類されている。

表2-2 Program Management標準におけるプロセスの分類
表2-2 Program Management標準におけるプロセスの分類

一方、Portfolio Management標準では知識エリアの概念がなくマトリックスではないものの、表2-3に示すとおりポートフォリオマネジメントに必要な9個のプロセスが、2つのプロセス群に分類されている。

表2-3 Portfolio Management標準におけるプロセスの分類
表2-3 Portfolio Management標準におけるプロセスの分類

(4) 各プロセス群におけるプロセスフロー図
上記(2)で述べたとおり、各プロセスはマトリックス上で該当するプロセス群に分類されているが、それぞれのプロセス群では分類されたプロセスの関係をフロー図として示されている。その例を、3つの標準全てに共通して存在するプロセス群「監視コントロールプロセス群」について示す(図3-1、3-2、および3-3参照)。

図3-1 PMBOKガイドにおける監視コントロールプロセス群のフロー図

図3-1 PMBOK®ガイドにおける監視コントロールプロセス群のフロー図


図3-2 Program Management標準における監視コントロールプロセス群のフロー図

図3-2 Program Management標準における監視コントロールプロセス群のフロー図


図3-3 Portfolio Management標準における監視コントロールプロセス群のフロー図

図3-3 Portfolio Management標準における監視コントロールプロセス群のフロー図


(5) インプット、ツールと技法、アウトプット
PMBOK®ガイドでは、各プロセスにはそのプロセスの結果として生成されるアウトプットがあり、そのアウトプットを生成するために必要なインプットとツールと技法が規定されている。例として、「スコープ定義」というプロセスにおけるインプット、ツールと技法、アウトプットを図3に示す。

図3 スコープ定義のインプット、ツールと技法、アウトプット

図3 スコープ定義のインプット、ツールと技法、アウトプット


これと同じ考え方が、Program Management標準やPortfolio Management標準にも踏襲されている。Program Management標準の36個のプロセスおよびPortfolio Management標準の9個のプロセス全てにインプット、ツールと技法(*)、アウトプットが明示されている。
(*) Program Management標準では、ツールと技法は全体に共通するツールと技法として記述されており、個別のプロセスごとには記述されていない。

今回このような内容を記したのは、実は米国の他の団体でも同様の動きがあるからである。それは、米国のコストエンジニアリング協会AACEI(Association of Advanced Cost Engineering International)がC3PM(Certified Portfolio, Program & Project Management)という資格制度を始めると発表した(具体的情報は不明)からである。AACEIによればコストエンジニアリングには、コスト見積り、コストマネジメント、収益性分析などコスト関連分野の他に、PMも含むと定義されている。AACEIではコストエンジニアとしての資格のほかに、PSP (Planning and Scheduling Professional)やEVP(Earned Value Professional)などPMの世界でお馴染みの手法が資格制度として既に行われている。

PMI®の会員の多くがIT系で占められるようになってきたのに対し、AACE Internationalの会員層はエンジ・建設系が中心であるといった違いはあるものの、プロジェクトマネジメントが、より上位のレベルであるプログラムマネジメント、ポートフォリオマネジメントの方向に向かったり、あるいはそれらも取り込んだりと、PMの世界の流れが感じられるこのごろである。

最後に、表題の「PM標準だんご三兄弟」に特段の意味はないが、PMI®はこれら3つの標準書をセットとして捉えているように思われること、更にAACEIにおいても3つをセットとした資格試験を行おうとしているということから、一昔前に流行った言葉と絡めてタイトルとさせていただいたものである。

備考) Portfolio Management標準とProgram Management標準の日本語訳は現時点ではPMI®から発行されておらず、本稿における日本語は筆者の訳によるものである。
以上
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