南アフリカPM協会2006年大会に出席して

PMAJ理事長 田中 弘:7月号

 筆者は南アフリカPM協会 (Project Management South Africa: PMSA)の招待を受けて5月30日から6月1日まで、同国ヨハネスブルグ市郊外で開催された同協会とPMI南アフリカ支部共同主催の2006年記念大会に出席し、基調講演と半日のワークショップの講師、及び大会2日目基調講演セッションの議長を務めて、同国とのPM交流を行いました。
 PMSAからは元協会会長で現在PMI理事であるBruce Rodorigues氏に(財)エンジニアリング振興協会とJPMFが共同で2001年に開催したIPMC2001国際PM大会と、2002年のPMCCとJPMFがホストを務めたOLCI 国際PM賢人会議に出席戴いており、今回はこの答礼を兼ねての参加でした。また、今大会がPMSAの母体であるPMI南アフリカ支部の創立25周年記念大会であり、90年代に筆者と北米外のPMIプロモーション仲間であったRodrigues氏の強い推薦があり、常連のPMI幹部と共に筆者がゲストスピーカーとして招待されたものです。
 貴金属の高騰を背景として経済好調であり、また2010年のサッカーワールドカップの開催が決定して気勢が上がる南アにとってPMはまさに国のコアコンピテンシーであり、大会を通じて強い意気込みを感じた次第です。
 以下に概要をご報告いたします。

1.PMSA/PMI南ア支部に関して
 PMSAは1997年にPMI南ア支部がPMIから世界初のナショナルPMI協会のチャーターを得てPMI South Africaとして誕生し、その後PMIからの申し入れでPMIという名称を取リ去ってProject Management South Africa という協会名称となりました。このようにPMI支部からナショナル協会となったのは、南ア政府の指導と会員の自決要求に応えたためでした。PMSAは会員数が1,400名であり、同国の名目的人口が4,500万人、PM対象人口が2,000万人程度であることを考えるとかなりの勢力といえます。
 PMI南ア支部は1982年設立でPMIの北米以外の支部では最古であり、90年代の半ばまではPMPの数で北米以外の70%程度を占めていた名門で、PMSAが出来た後も支部として存続しており、現在の会員数は200名とのことです。PMSAとPMI支部は実体では共同運営を行っており、うまく2重構造を保ちながら結束の強いPMI社会を形成しています。

2.大会に関して
 PMSA大会は隔年開催であり、今年はPMI南ア支部の創設25年を記念して、海外からのゲストスピーカー数を拡大して、ヨハネスブルグ郊外のGallagher Estate Convention Centreで350名の参加者をもって開催されました。この会場は珍しく民間経営で、なかなか豪華な施設でして、このような会場で講演を行うと、スピーカーとして普段の30%程度増し程度のパフォーマンスが発揮できるような気がしました。
 大会ゲストは、親元のPMIからはIain Fraser会長(ニュージーランド)、Louis Mercken前会長(ベルギー)、Bruce Rodrigus 理事(南ア)とEd Andrews リサーチディレクター(米国)が、PMI以外では、筆者と、P2Mの強い支持者である英国のTerry Cook-Devies博士及び米国のGinger Levin 博士、といった面々でした。
 また、地元代表として、官から Sean Phillips建設省公共事業局長、Ivor Blumenthal Services SETA (人材育成庁)長官、産業界からはKPMG、X-Pert Group (同国コンサル最大手)の代表、PMSAからはBruce Webb元会長が講演を行っています。

3.基調講演とワークショップ
 筆者の基調講演は大会初日のPMI会長に続いての2番目という絶好のスポットを得ることができて、筆者が主催者に提案した5件から選んでもらったInnovation and Project Management という講演を行いました。

国際ゲストスピーカー一同 ゲスト(左)と主催者懇親会
国際ゲストスピーカー一同 ゲスト(左)と主催者懇親会

 この講演では筆者が提唱する、コアテクノロジー、MOT(技術経営)、プログラム&プロジェクトマネジメント(P&PM)から成るバランス型イノベーションモデルを実例を交えながら説いており、このモデルを推進するためにP2Mあり、という筋書きです。
 大会に先立って同協会のPMSAジャーナルでは2号に亘って基調講演者のインタビューを掲載しており、筆者も最初の号でP2Mに関するインタビューを受けている(記事は2ページ分)のも幸いしたと思います。
 他ではどの大会でも人気が高い英国のCooke-Davie博士と米国Levin博士の講演がこの大会でも高い評価を得たようです。
 次に、大会では合計4本のワークショップが組まれていましたが、ここでも筆者は初日のトップバッターで、エンジニアリング振興協会PM部会の労作であるMulti Project Management を題材とした4.5時間のワークショップを主催しました。MPMはこれまで海外で2回講演を行っており好評であったので、今回はこれを補強し、かつ演習セッションを6つほど設けてワークショップとして仕立てたものです。
 30名の部屋を用意していたのが、参加希望者が30名を超えたので急遽50名の部屋に変えて、37名の参加者がありました。40名弱と大人数で演習付のワークショップではアシスタントがいるので、友人であり、PMSA元会長であるLesley Ryder 女史(英国出身)にお願いして演習を手伝ってもらいまいした。


MPMワークショップ演習風景  MPMは元々コントラクターの事業部横断的なPM管理体系であるが、コントラクターの参加者が少ないこの大会では、MPMは複数のプロジェクトが走るいかなる組織でも当てはまるとして展開しました。参加者にはPM経験が浅い人も半数程度おり、彼らにはMPMは若干難しかったが、そこはワークショップのよいところで、グループ討議ではベテランがリードしてくれて、全体運営はスムーズでした。
 MPMの内容をその場で理解するより、概念を捉えて、演習で討議をするプロセスが大事であると伝え、参加者は大変熱心に討議をし、また発表を行ってくれました。
MPMワークショップ演習風景

4.南アフリカ寸描
 今回はヨハネスブルグと隣の首都プレトリア及びその郊外のみの訪問でしたが、第一印象はまるでヨーロッパの国の首都を訪れたようだということでした。黒人が居るのはヨーロッパの大都市の常であるし、どうもアフリカに居るという実感が少なく、やはり、ここはオーストラリア、ニュージーランドと並んでヨーロッパの飛び地である、といった雰囲気でした。
 我々国際ゲストが経験した範囲では、元々のエスタブリッシュメントである白人に加えて、カラードのヌーベル・リッシュ(成金というフランス語)が1台5〜10万米ドルもする車を乗り回し、また同国の物価水準では決して安いといえないレストランに出没する光景をそこかしこで目にしました。
 南アは人口約4.5千万人であり、そのうち、1千万人弱がヨハネスブルグ/プレトリアに居住しています。人口のうち10%が白人(オランダ+ベルギー系のアフリカーンズと英国系が主力)、10%がカラード(Colored)と呼ばれるアフリカーンズと黒人の混血の中流階級、残りの人口比80%の黒人(ズールー族が主体)では、政府や民間企業のマネジャーとして活躍する層が10%、何らかの労働に従事する層が40%、失業者が30%となっています。
 現在南アは、金、プラチナ、ウラニウム、銀、鉄、石炭など貴金属・好物の産出国として5%を超す経済成長を続けており、また、94年のネルソン・マンデラ政権誕生以来の社会改革もそれなりに進んでいるが、Handicapped People と呼ばれる30%+αの国民の自活支援のために数々のプログラムが実施されています。これら人々は、自然のままに生活することしか出来ず、貨幣の使い方を含めて社会の仕組みも分からないとのことで、この層を計算できる労働力に引き上げるのは並大抵の努力ではないと実感した次第です。
 南アフリカは大方の予想を裏切り、2010年のFIFAワールドカップサーカー大会の開催国に選ばれた。財政力ではなんとかやり遂げる国力はあるでしょうが、問題は、このような国内インバランスを抱えるなかで、この巨大プロジェクトに対してどのようにマスター計画と詳細計画を行い、それを体系的にマネージするかということです。12のスタディアムの新設、ロジスティック網の整備、ドイツ大会で1万6千人人というボランティアの調達と難関は大きいと感じます。大会晩餐会のゲストスピーカーであった元英マンチェスターユナイテッドの名ゴールキーパーであり現在人気キャスターのGary Bailey 氏は大会推進委員会の主要メンバーであるが、南ア ワールドカップは、確かにハードルは高いが、これを乗り切った後に、天然資源など世界級の可能性を有する南アが大きく飛躍する機会があり、プロジェクトマネジメントはワールドカッププロジェクトで、その価値が大きく試される、と述べました。

5.南アフリカのPM
 南アは前述のように1982年には海外初のPMI支部を生んだくらいで、国のレベルでのPMへの取り組みは長い歴史を有しています。主たる推進者はエンジ業界で良く知られているSASOL(かつて、アパルトハイト政策への経済制裁下で世界の石炭の4分の1を原料にして石炭液化を大規模に実用化していた)や建設業界の人々でした。
 現在は南ア政府がSouth African Qualification System = SAQA(職業能力体系:英国とオーストラリア、南ア、ニュージーランドなど英連邦諸国で実施している国家職能体系)へのPMの位置づけを行って、PM推進を目指しています。
 これまで4回訪問した同じ英連邦国のオーストラリアのプロジェクトマネジャー達は、グローバルな動向にはほとんど興味を示さず、なるほど「ダウン・アンダー」であると感じたのですが、香港での乗り継ぎの便が悪く30時間かけて訪問した南アフリカは地理的には大変遠い国ですが、コスモポリタン国であり、大会に参加したプロジェクトマネジャーはEUやアメリカの情勢には極めて敏感でした。グローバル観を背景とした彼らの今後の国づくりへのP&PM活用を大いに期待したいと思います。

 なお、今回も年に何回かある、PMI会長他幹部の方々と寝食を共にした1週間でしたが、Louis Mercken 昨年度会長もIain Fraser会長も北米以外からの会長であり(Mercken氏が初)、彼らの力強いリーダーシップに接しているとPMIを動かす力が確かに北米軸からグローバル軸に変ってきていること、そして、協会の要職にあることを別としても彼らのPMプロフェッションに対するコミットメントが大変強いことを直に感じました。
 
 帰国して、地球の上下反対側の日本から筆者をわざわざ講演に招いてくれた南アの関係者の方々に感謝すると共に、P&PMは世界へのパスポートであるとしみじみと感じております。

以上