「北の動物園できいた12のお話   ―― 旭山動物園物語 ―― 」
(浜なつ子著、あべ弘士(絵)、角川学芸出版発行、2005年11月30日、初版、
185ページ、1,200円+税)

デニマルさん

 旭山動物園は、北海道の旭川にありあまり大きくない北の外れの動物園だが、入場数では全国1位(2005年7,8月の記録)である。通年では、上野動物園、名古屋東山動物園に次いで3位であるが、冬季の短い開園期間を考えると実質は日本一の人気ある動物園なのだ。この動物園は旭川市が運営しているので、少ない予算で細々と行われていた。しかし、そこで働く飼育係や獣医さんは、お金が無くても大きな夢があった。どうしたら動物たちがノビノビノと暮らせるか、訪れるお客さんが楽しんで動物と接することが出来るかを熱心に検討していた。現在の動物園になるまでには16年以上の歳月と、夢を実現する予算が少し認められた。そこで「こども動物園」「ととりの村」「ペンギン館」「あざらし館」等が徐々に建設された。この本から、旭山動物園の人間と動物の温かい心の物語を紐解いてみよう。

旭山動物園人気の秘密(その1)    ―― 動物のための動物園 ――
 動物園の動物は、殆ど野生のものを捕獲して飼育され、我々が観賞している。人間にとっては、アフリカの象やライオンがいつでも安心して見られるので都合がいい。しかし、動物たちにとっては甚だ迷惑な話である。安全と食糧が保障されている代わりに、動物本来の姿が損なわれている。そこで、旭山動物園では動物らしく野性味を失わない方法として、野性動物はペットではないということを、動物園が動物に代わってお客さんに伝えている。

旭山動物園人気の秘密(その2)    ―― お客さまのための動物園 ――
 旭山動物園では、その動物が自然で最も迫力ある動きをお客さんに見て貰う工夫を凝らしている。「もうじゅう館」では、普段寝そべっているアムール豹の姿を網の下からフサフサした毛と共に目の前で見られる。他に「アザラシ館」でのあざらしの水中を飛びように泳ぐ姿が見られる等々。見る人が楽しめる仕掛けがたくさん工夫されている。だからまた行きたくなったり、見てない人も行きたくなる日本一、いや世界一の動物園かも知れない。

旭山動物園人気の秘密(その3)    ―― 飼育係が主役の動物園 ――
 動物園の主役は動物たちであるが、ここではお客様のために動物を見せてくれる飼育係りの人も主役である。手作りの案内板や動物の生活リズムに従った行動の案内役である。更に「飼育係は、動物とお客さんの通訳になろう」と徹してので、動物と同じように飼育係さんの人気も高いという。本当に動物とお客さん本位の動物園である。そしてこれを物語として紹介しているこの本もまた素晴らしいので、是非機会があったら読んでもらいたい。