次号 米澤徹也 :11月号
  PMP試験部会
PMBOK®ガイドの読み方

1.はじめに
PMP試験部会では、本欄にて第1回目にPMI®(Project Management Institute)北米大会報告を行いましたが、第2回目以降はPMBOK®ガイドについてPMP試験部会員が各自の思い入れも含めて交代で解説していきます。PMBOK®ガイドに記載されていることを単に要約するのではなく、例えば次のような観点から解説を行い、PMBOK®ガイドにより親しみが湧くような話題を提供してきたいと考えています。
 ●実践的な観点からの解説
 ●PMBOK®ガイドには直接的な記述はないが、それを横断的に見た解説
 ●PMBOK®ガイドを楽しく読む

今回は、初回として全体的な観点から述べてみます。

2.PMBOKとは
通常一般にPMBOK(ピンボック)と呼ばれるプロジェクトマネジメント(PM)の知識体系なるものは、正式にはPMBOK®ガイドと記されるものです。PMBOK®ガイドとは、PM知識体系のうち、「良い実務慣行と一般的に認められている部分を特定」したもので、より大きなPM知識体系の部分集合になります(図1参照)。すなわち、世の中のさまざまな適用分野のPM知識体系全てを1冊の本にまとめることは不可能なので、共通的な部分について記したものがPMBOK®ガイドということです。
以降は慣例に従い、単にPMBOKと表記した場合は、PMBOK®ガイドのことを意味するものとします。また、特に断らない限り、最新版である第3版について述べていると考えてください。

図1 PMBOK®ガイドの位置づけ
出典:PMBOK図1-2 プロジェクトマネジメント・チームが必要とする専門領域

PMBOKを勉強すれば、あるいはPMP®資格を取得すればPMのことが分かるのかとか、プロジェクトマネジャーになれるのかといった議論を良く耳にします。たかだかPMBOKを勉強したぐらいでは、PMを知った振りくらいはできても、それだけでPMを理解できるとか、プロジェクトマネジャーができるわけではないことは多くの方々が十分承知されているとおりです。PM未経験者は実践に向けてPMの基礎を体系的に理解するために、そしてPM経験者は自らの経験を体系的に整理する目的でPMBOKを学ぶことで、十分にその意義が見出せるものだと思います。

3.プロジェクトとは
PMBOKではプロジェクトの主たる特徴として「有期性」と「独自性」を挙げています(PMBOKでは、更にこの有期性と独自性から導かれる特徴として「段階的詳細化」を挙げています)。 最近はPMに関する本がたくさん出版されていますのでプロジェクトの特徴としてさまざまなものが挙げられています。例えば、「不確実性」、「資源制約性」、「成否の可視性」、「チーム達成性」などがあります。その中で、有期性と独自性はどんなPMの本にでもでてくる共通的な特徴といえ、PMBOKが一般的に認められている部分を特定していることが実感できるところです。ここでプロジェクトの特徴と言っているのは、日常の業務(定常業務)と比べた特徴のことですが、では定常業務には本当に、独自性や不確実性はないのかとか資源に制約はないのかといった異論もあるかもしれませんが、ここは大枠で捉えた性格の違いであると理解したほうが良いでしょう。

次に、別の視点からプロジェクトの階層について考えてみます。プロジェクトは更にサブプロジェクトに分解できますし、またはプロジェクトにはより上位の階層も存在します。その上位の階層にはさまざまな呼称があります。お互いに関連するプロジェクト相互間をより効率よくマネジメントするためのプロジェクトのグループを「プログラム」と呼んでいます。そのプロジェクトやプログラムを戦略的な事業目標達成のために効果的にマネジメントする目的でグループ化したものを「ポートフォリオ」と呼んでいます。事業部・事業本部またはその上位組織として複数のプロジェクトをマネジメントするためのグループを「マルチプロジェクト」と呼んだりしています。これらをマネジメントする立場から見ると、それぞれ「プログラムマネジメント」、「ポートフォリオマネジメント」、「マルチプロジェクトマネジメント」になります(図2参照)。更に企業レベルで行う「エンタープライズプロジェクトマネジメント(EPM)」などの上位の概念もあります。


図2 プロジェクトの階層

このようなプロジェクトの階層構造の中で、PMBOKはあくまで単一プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントのプロセスを特定しているものです。最近の世の中の流行りで、上述したプロジェクトマネジメントよりも上位の概念がもてはやされています。PMI®でも2〜3年前にOPM3という組織のPM成熟度モデルが発行され、そして現在プログラムマネジメントとポートフォリオマネジメントがドラフトレベルで完成しています。これらの上位概念は今後ますます注目されるでしょうが、それらは主として単一プロジェクトの集合体ですから、やはりPMBOKをきっちりと理解しておくことが重要であることには何ら変わりはないと考えています。

4.統合マネジメント
第3版の改定で一番すっきりしたなと思うのは統合マネジメントです。統合マネジメントは9つある知識エリアの一つで、他の知識エリアのプロセス相互間を調整・統合等を行うもので、PMの要ともいえるでしょう(図3参照)。
PMBOK2000年版の解説講座を行っていた時に、プロジェクトの始まりである「立上げ」がなぜスコープマネジメントなのか、又プロジェクトの最後である「完了手続き」がなぜコミュニケーションマネジメントにあるのかといった質問を良く受けました。プロジェクトの始まりと終わりは、やはり統合マネジメントのプロセスではないかという、素朴な疑問です。私自身も疑問に思っていたところでしたので、それなりに解釈して回答していました。それが第3版では「立上げ」も「プロジェクト終結」も統合マネジメントに含まれることになり非常に分かりやすくなりました。
PMBOKでは、プロジェクトの流れに沿って、立上げ、計画、実行、監視コントロール、終結の5つのプロセス群がありますが、各知識エリアでこの5つのプロセス群全てにプロセスが存在するのは統合マネジメントだけです。統合マネジメントに一本の筋が通っていると考えても良いかもしれません。


図3 統合マネジメントと他の知識エリア

当部会で実施しているPMP試験対応講座でもPMBOK2000年版の時は、統合マネジメントは何となく捉えどころがないという理由から、他の知識エリアを先ず解説して最後に統合マネジメントとは今まで学んだ全ての知識エリアのマネジメントを統合するものだという形で講座を進めていました。ところが、第3版対応では先ず統合マネジメントで全体像を説明しないと次に進めないという風に大きく変化しました。

これだけでも、PMBOKが第3版に改定された意義を十分に感じ取れるのです。

次回担当者に続く