何か変だなー「ITソリューション・ビジネス」
オンライン編集長  渡辺 貢成


 今IT産業は隆盛の勢いであり、PMを真剣に学ぶ姿勢は他の業界に比較して熱心です。残業も多く、皆さん熱心に勉強し、仕事もしておられます。尊敬すべき業界と思っています。しかし業界が異なる私にとってたいへん不思議な業界だと感じています。私は化学、石油業界、原子力業界、宇宙開発業界の仕事をしてきました。業界が変わるたびに文化、仕組みの違いに戸惑いながら、この業界の常識や業務遂行の仕組みは何かと研究し、短期間でこれらを掴む訓練をしてきました。最後の仕事がJPMFです。ここでIT業界の方々とお会いしました。会員の50%以上がIT系ですから、私もITの勉強をしています。しかし私が経験した業界の常識から見ると「何か変だなー」思われてなりません。
 全く悪意はありませんが「業界の中にいる」と見えないが、「業界の外にいる」と見える変なことが世の中にはたくさんあります。今回はITソリューション・ビジネスに焦点を当てました。

1.ITソリューション・ビジネスとは何か(理解できないところから出発)
 社会にソリューションと名のつく会社が多くなりました。会社名にソリューションと使わなくともソリューション事業部のない会社はないようです。今時「ソリューションとは何をすることか」わからないと恥をかくと思い、こっそりいろいろな会社のカタログを読みました。立派なことは書いてありますが何をするのか、読んでも分かりませんでした。カタログとは読者が分かるように書くのが常識と思っていましたが、印象として理解できない私は時代の脱落者だという認識を強めました。

そこでソリューションと名のつく本を検索すると60冊以上ありました。60%がITソリューションで、30%がソリューション・セールス、残り10%がいろいろなソリューションでした。10冊ばかり購入して読み漁りました。従来は顧客の業務をIT化していたのですが、近年はグローバル化に伴う「経営のスピード化」、「戦略化」、「総合化」などを含む経営改革が求められるようになり、私どもがこれらのニーズに適応したIT化をしてあげましょうというビジネスだと分かりました。

2.ソリューション・パッケージで顧客の問題を解決してあげられるのか(という疑問に遭遇)
 グローバル化にともなう経営改革とは従来実施していなかった「経営上の問題」、「業務の運営上の問題」の改革と考えられます。ソリューション・ベンダーとはこれらの問題を解決するソリューション・パッケージを持ったベンダーだということが分かりました。そこで「一つのパッケージを導入することで経営改革が達成するのか」という疑問を感じました。企業はそれぞれ経営上、多くの問題を抱えています。業務改革が進んでいる企業と遅れている企業ではソリューションの対応がことなるはずです。経営上の問題点を把握することなしにパッケージを導入して問題が解決するのかという疑問です。

3.「As is」と「To be」を描いて問題解決という疑問
 この点を質問しますと、「ありのままの姿(As is)」と「あるべき姿(To be)」を描き、現状に適した提案をしますという答えが返ってきました。これは「P2Mだね」。P2M的手法が取り入れられていると分かり、私の理解力が増すと同時に、また疑問を持ちました。「ありのままの姿」を見つけることの難しさを痛感しているからです。ゴーン社長は以前の社長がなし得なかった日産自動車の「ありのままの姿」を描き、これを基に「あるべき姿」を示し、社員に理解させたことで日産改革を成功させました。「外部の人間が簡単に現状のありのままの姿描くことができるか」というのが私の疑問です。

4.何故「経営の改革」に顧客の経営者が積極的に参加しないかという疑問
 調べてみますと、ITプロジェクトの失敗要因を重要度別に整理すると顧客理由が2/3程度に達します。顧客から「要求仕様」が出されないという問題があります。
 日本の経営者の90%以上が今や経営のIT化は必要条件と考えています。しかし、経営のどこをIT化するとわが社の競争力がどれだけ上がるのか、コストがどのように下がるかという発想を持っている経営者は少ないようです。IT技術はドックイヤー的に変化しており、経営者の理解を遥かに越え、お手上げなのでIT担当者任せにしているのが現状ではないかと推察されます。
 「経営者が何をしたら経営改革ができるかという発想なしに、また『現状のありのままの姿』が分からないITベンダーに責任を委ねて本当に経営改革ができるのか」という疑問です。同時に「ITベンダーが他社の『ありのままの姿』も分からずにソリューションできるか」という疑問が未だに残されています。

5.現場の意識改革というソリューションができるのかという疑問
 IT化が効力を発揮しないとIT化した価値が発揮できないことはどなたも異論のないところです。IT化を実施するには現場の意識改革なしに実行されないことは自明の理です。一番難しいのは社員の意識改革です。ソリューション・ベンダーの業務範囲はシステムの導入までなのか、導入して価値を発揮するまでなのかという疑問です。ちなみに米国は投資効果を評価対象としています。日本はシステムの納入をもって評価されているようです。
では投資効果が出るのかという疑問が残りました。
門外漢のたわごとですが、無知という恥を忍んで書きました。専門家の皆様から是非教えていただきたいと思っています。

以上