PMRクラブコーナー
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―PMBOKとP2M、そして日本人―

川口 莊太郎 [プロフィール] :7月号

 私が初めてPMBOKに出会ったのは10数年以上も前になるでしょうか。それまで私や周辺の人々は、先人達の背中を見ながらプロマネ技術を経験的に身につけてきました。また、それが当たり前だと思っていました。しかし、PMBOKの出現は、私に衝撃を与えました。と同時に、現場で苦労して培ったノウハウがそれほど容易に纏め切れるのか、単なる教科書ではないかという疑問を抱いたのを覚えています。それから10数年以上が過ぎ、今やPMBOKはプロマネの基本常識となりました。PMBOKに出会った頃は、私も世の中の潮流に乗り、PMPを取得しました。PMP取得後も実際のプロジェクトを担当しましたが、その当時のPMBOKの対象はいわゆる案件(プロジェクト)の受託からカットオーバーまでの単一プロジェクトが主流でした。そのため、率直なところ物足りなさも感じ始めていました。
 そんなとき、出会ったのがP2Mでした。現在では米国PMIでもOPM3などに代表されるように、ポートフォリオマネジメントやプログラムマネジメントがごく当たり前の世界となりましたが、その当時、プログラムマネジメントの概念を纏まった形で世の中に発表したのはP2Mが初めてだったと記憶しています。P2Mは、細目では賛否両論の意見もあろうかと思いますが、全般的には多くの学ぶべき知識体系を持つ標準ガイトだと認識しています。実際、当時から外部環境の変化の中でプログラムマネジメントによる価値創造に重点を置いていたことは勿論、個別マネジメントでは戦略やファイナンス、システムズ、関係性など、より多様なマネジメントに関する実践力体系を明らかにしていたことに感銘しました。また、最近ではIT業界でも国際調達が定着化しつつありますが、先行していた建設・エンジの適用背景もあったのでしょうか、異文化コミュニケーションにも言及していたこと、さらにコミュニケーションマネジメントでは高低コンテキスト文化における経営組織と運用を取り上げていたことは印象的でした。

 さて、日本人は高コンテキスト文化を持つ国民だといわれます。私自身も日本人は「グリーンエリア」や「場」への対応が得意な民族だと感じています。「災害時でも冷静に秩序を守って行動する(⇒特にマニュアルが存在するわけではありません)」、「我先にではなくきちんと自分の順番を待つ(⇒このことはマニュアル以前の問題かもしれません)」、「阿吽の呼吸(⇒そこには言語は存在しません)」などは、その代表的な例でしょう。低コンテキスト文化の欧米諸国の国民には奇異に感じることかもしれません。
 一方、PMBOKの出現でスコープの定義はプロマネの基本中の基本となりました。しかし、どんなに精度を上げても100%スコープの隙間を埋めることは困難だと考えます。そのようなとき、「グリーンエリア」や「場」の存在を認知でき行動できるスキルを持つことは強みになり得るのではないでしょうか。P2Mでは、高低コンテキスト文化のハイブリット化が今後のグローバルビジネスを実現する上での1つの解としてとらえています。高コンテキスト文化の特長を活かすという観点で私自身もその考え方に賛成です。
 日本が今まで成果を上げてきた「グリーンエリア」や「場」の存在を低コンテキスト文化の国々に押し付けるわけには当然いきません。しかし、低コンテキスト文化が生んだWBSの標準化や精度向上を努力するのと同時に、「グリーンエリア」や「場」の存在の理解を広げ組織としての対応力を向上させることは、今後、複雑で変化が激しい環境でプログラムやプロジェクトを実践し、成功に導く上で重要なことと考えています。なぜなら、言語やマニュアル、契約だけでは完全に隙間を埋めることができないからです。複雑になればなるほど変化が激しくなればなるほど、隙間の存在が多くなり、コンフリクトも増加するでしょう。紛争解決・調停手段の整備やコンフリクトマネジメント強化も必要でしょうが、日本人が持つ「グリーンエリア」や「場」の活用で問題解決を図っていくことも対応策の1つと考えます。その仮説に立つと、新興国の台頭(中国など新興国も低コンテキスト文化の国が多いのではないでしょうか)などにより、元気を失い低迷する日本ですが、高コンテキスト文化の強みを活かし、世界の多くのビジネス分野で活躍できる場がまだまだ存在すると信じています。

 以上述べました通り、P2Mをもっと世界的に広めていくべきだというのが私の結論です。ただ、上記の仮説にはリスクも存在します。最近、「空気が読めない」という言葉をよく耳にしますが、そのような言葉が普通に交わされる現状を見ると、現代の日本では今や低コンテキスト文化が浸透し、「グリーンエリア」や「場」への対応ができなくなってきている可能性も推察されます。日本でもP2Mの普及を同時に継続して行っていく必要があるでしょう。
以上

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